<風船の徘徊 3>  集団的な記憶


猛烈な台風が日本列島を通過するなかで行われた沖縄県知事選は、
軍事基地反対派の圧勝に終わった。

この選挙戦が示した確かなことのひとつは、
太平洋戦争末期の米軍沖縄上陸作戦による沖縄全土・全住民の
壊滅的な被害の歴史が敗戦から73年を経て、沖縄県民のうちでは
毫も忘れ去られていないということである。

残念ながら本土の住民の方では、
戦争の惨禍について集団的な記憶喪失が徐々に進行している。
少し具体的に述べれば、<赤紙、出征、戦死、玉砕、特攻隊、学徒出陣、
総動員法、治安維持法、大本営発表と虚偽戦争報道、東京・大阪大空襲、
米軍の沖縄上陸攻撃、広島・長崎の原爆被爆、敗戦後の焼土・国民的飢餓>等
についての「集団的記憶」が高度経済成長以降の日本社会から
次第に無くなり消えゆき始めているということである。

朝日新聞投稿短歌の

「水木逝き野坂が去りてホタル舞う 闇へ消えゆく昭和九十年」
(小平市 北川泰三作)

もこのことを表現しているのだ。
(→水木しげる「娘に語るお父さんの戦記」、野坂昭如「火垂るの墓」)

戦争の歴史の語り部たちの死とともに、昭和という時代の「記憶」が
闇へ消えゆく無念と悲しみを詠んだものだ。

ユニークな都市経済学・都市計画の専門家であり、文明批評家でもあった
ジェイン・ジェイコブズ女史(1916−2006)は、社会が凋落し
「暗黒時代」に陥ち入らないためには、「集団的記憶喪失に陥らないように
することが大切だ」と警告する。

「成功する文明の真の力は(忘れてはいけない文明の)先例のなかに
存在する、社会が自己を認識していなければならない」という。

(彼女は、米ベトナム戦争にも果敢に反対した。)

(付記)なお、その彼女の本来の専門領域での活動と闘いを描いた
ドキュメンタリー映画が10月27日から、神戸「元町映画館」で上映される。

題名は:  「ジェイン・ジェイコブズ――ニューヨーク都市計画――」

<2018.10. 02 記>



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