「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第98回 Max Ionataに首ったけ

 昨年の11月の某日、いつものように神戸の三宮センター街にあるHMVのジャズ売り場
をうろついていたところ、あたかも僕がジャズ喫茶に入り浸っていた1970年代前半頃
に良く耳にしたようなサウンドの音太いテナーサックスの演奏が、突然耳に飛び込ん
できたのでした。“こんなサックス、一体誰だろう?”とカウンターまでCDジャケットを
眺めに行ったところ、それはMax Ionataというイタリア人のサックス奏者によ
る“Night Walk”(Norma Blu)というタイトルの、10月新譜で発売されたばかりの作品だっ
たのです。スイングジャーナル誌の11月号では、評論家の小川隆夫氏が「この手のテ
ナーサックス奏者は1970年代から80年代にかけて数多く登場した。しかし最近ではこ
こまで堂々とトレーン・ライクにテナー・サックスを吹きまくるひとは珍しい。そこ
に古い感性を持ったぼくは心を動かされた。やっぱりジャズはこうでなくちゃ。そん
な思いを強く感じさせ、そしてニヤリとさせられたのがこのアルバム。おまけにピア
ニストまでマッコイ・タイナー風ではないか。」との、僕の心情に極めて近しい感性
の評文を寄せておられました。
 実は、僕がMax Ionataという名前のミュージシャンに興味を抱いたのは、今回が初
めての事ではありませんでした。昨年の7月に“Inspiration”(Albore)というタイトル
の作品が本邦デビュー作として発売されており、店頭に並んでいたそのCDを見て如何
にもテナーサックスの音色が聴こえてきそうなジャジーなジャケットに心惹かれたも
のの、そんな作品をいちいち購入する程懐に余裕がある訳ではなく、買うのを諦めた
との経緯があったのでした。しかし、 “Night Walk”を購入してすっかりMax Ionataの
虜になってしまった僕は、今回“Inspiration”および彼の輸入盤の旧作を何枚か入手し、
ますます彼に首ったけとの状態に達してしまいました。
 Max Ionataは1972年の生まれとの事ですので、今年で38歳。ジャズミュージシャン
として、まさしく脂の乗りきった年代であると言えるでしょう。彼の略歴をウィキペ
ディアから引用してみますと、「地元マーチング・バンドに加入したことをきっかけ
に、11歳で初めてサックス を手にする。プロとしての専業活動は2000年以降と遅咲き
ではあるが、プロへの転向を心に決めた後は、昼夜三勤の生活を行いながら練習に励
んだという、世襲の多いイタリアにおいては例の少ない大器晩成型である。2000年、
マッシモ・ウルバーニ 賞を受賞。同年、自身のクァルテットでバロニッシ国際ジャズ
コンクールで優勝。2001年、仏アヴィニョン の国際コンクールにて市民賞を受賞。以
降の活躍は目覚ましく、世界的プレイヤーとの百戦錬磨の共演、そして何よりその倍
音豊かな野太いサウンド、とめどなく溢れ出る明快かつ力強いフレージングによって、
日本でもうなぎ上りの人気と注目を集める。
今や、現代イタリアン・ジャズ界を代表
するテナー・サックス 奏者として、ローマ を中心に積極的に活動を行っている。」
との事です。
 それでは、僕が購入してとりわけ気に入った輸入盤の彼のリーダー作についても少
し紹介する事にしてみましょう。まず、“LODE 4 JOE / TRIBUTE TO JOE
HENDERSON”(WIDE SOUND)という作品ですが、全編ピアニストのLuca Mannutzaとのデュ
エットによる演奏であり、彼と同じテナーサックス奏者であるJoe Hendersonのオリジ
ナル曲を集めて収録した作品です。本コラムではWayne Shorter(84回)やHank
Mobley(93回)といったテナーサックス奏者のオリジナル曲についてお話してきました
が、何故かテナーサックス奏者には秀曲を編み出すミュージシャンが多く、1960年代
にBlue Noteレーベルから多くのレコードを吹き込んだJoe Hendersonもまた、素晴ら
しい作曲家の1人であると言えるでしょう。本CDでは演奏内容もさる事ながら、
「Shade of Jade」・「Serenity」・「Recordame」・「Isotope」などといったJoe
Hendersonのペンになるジャズオリジナル曲をまとめて聴く事ができるのも魅力です。
 そしてもう1枚、“Tenor Legacy”(Picanto Records)という作品をご紹介しましょう。
このCDは、一昨年に“Five for Fun”でBlue Noteレーベルからメジャーデビューを果た
し、イタリア最強の新世代ハードバップ集団として日本でも超話題になったグルー
プHigh Fiveのサックス奏者であるDaniele Scannapiecoとのツインテナーによる作品
ですので、悪かろうはずがありません。Max Ionata〜Daniele Scannapiecoの関係は言
わば、本コラム第71回で述べたEric Alexander〜Grant Stewartのイタリア版とも呼べ
るのではないかと思います。現在、新感覚のHard Bop Jazzが活況を呈するイタリアジャ
ズ界ですが、今後Max Ionata〜Daniele Scannapiecoがますますそのムーブメントを加
速化していってくれると期待できそうです。それにしても、このような若くて才能の
あるミュージシャンを見つけ出すという事は本当に楽しいものですね。
 ではまた来月、暖冬との予想とは異なりやたら肌寒い日々が続きますが、皆様どう
ぞこの寒さに負けずにお過ごし下さい。
                        (2010年1月10日 記)