「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第88回 ハードバップの素晴らしい新譜を紹介しましょう

 つい先々月にも全く同じような事を述べましたが、最近は新譜の発売量が膨大にな
りつつあるため、たとえ「スイングジャーナル」を読んだりCDショップへ頻繁に足を
運んだりしても、新しい作品に関してはごくわずかしか情報が得られないような状態
です。そこで必然的に、ジャズ専門ショップのホームページが最も有用な情報源とい
う事となり、最近の僕はほぼ連日「ディスクユニオン」や「Vento Azul」等といったお
店のホームページとにらめっこして、主に通販で新譜CDを購入しているとの次第です。
僕が特に興味を示して購入するのは、やはりピアノトリオ盤である場合が多いのです
が、ごく最近ホーン入りのバリバリハードバップと言える新譜で、僕のお気に入りと
なった作品が立て続けて数枚ありましたので、今回はそれらを紹介する事にしてみま
しょう。
 まず1枚目はテナーサックスのJohn Farnsworthによる“Live from Smoke”(Artists
Now Records)という作品です。John Farnsworthという名前からは、本コラムの第2回
でご紹介したOne for Allという現代最高峰のハードバップバンドのドラマーであ
るJoe Farnsworthの兄弟なのでは?と推測するのですが、このアルバム中ではJoe
Farnsworthはドラムスの席には座ってはいません。ただ、同じOne for Allのメンバー
であるトランペットのJim RotondiやトロンボーンのSteve Davisはこの作品に参加し
ていますので、John FarnsworthもまたOne for Allのメンバー達と近しい関係で彼の
音楽活動を展開しているのだろうと思います。内容に関しては、「Vento Azul」のホー
ムページ内の紹介文からまたまた勝手に引用させて頂きましょう。『60年代Blue
Note時代のジュニア・クックやデクスター・ゴードン、ハンク・モブレーらを彷彿さ
せるファーンスワースのハードドライヴィンでリリカルな温かみのあるテナーは、ハー
ドバップ・ファンに支持されること間違いない。曲がまた良いんです!リー・モーガン
が演ってそうな急速調のワルツ「Mozzin`」はじめ、Vee Jay〜Blue Note初期の頃にショー
ターが書いたかのような「Shorter Moments」など最高です。』どうです、聴きたくなっ
てきたでしょう(笑)。演奏自体も、本コラムの第47回でご紹介して、僕がどうしても
行きたいN.Y.のジャズクラブ「Smoke」(残念ながら、その後未だに訪れる機会はないの
ですが)でのライブ録音であり、臨場感もまた最高です。
 お次は、Mike Melitoというドラマーによる“In The Trandition”(自主製作)という
作品を紹介しましょう。1965年生まれの既に中堅とも言えるこのドラマーの事を僕は
今まで名前すら知らなかったのですが、過去に3枚のリーダー作を発表しているとの事
でした。本作では、本コラム第58回で紹介したテナーサックスのGrant Stewart(!)お
よびトランペットのJohn Swanaの2管をフロントに配して、ギターを加えたセクステッ
ト編成で熱い演奏を繰り広げています。演奏開始のボタンを押すや否やいきな
りSonny Clark作の「Junka」のテーマメロディーが飛び出してきて、その後も Hank
Mobley作の「Hankerin」やTadd Dameron作の「Good Bait」などが続くという次第ですの
で、これはもうガチガチの正統派ハードバップ作と言わざるを得ないでしょう。この
作品を聴いて余りにも感激した僕は、彼の以前のリーダーアルバムである“`Bout
Time!”(MHR Records;2000年作)と“The Next Step”(Wee Bop Records;2005年作)までも
を購入してしまいましたが、特筆すべき事はすべての作品にGrant Stewartが参加して
いますので、恐らく2人の相性は抜群なのでしょう。
 最後にもう1枚、Rob Jacobyという名前のテナーサックス奏者による“Step
Up”(Garagista Music)という作品をご紹介します。彼はまだ若き新進気鋭のミュージ
シャンであり、このCDが初リーダー作との事ですが、本コラム第30回で紹介したトラ
ンペットのBrian Lynchや同じく第29回で紹介したピアノのDavid Hazeltineといった
蒼々たるメンバー達がサイドメンとして脇を固めています。このCDでも冒頭からいき
なり、本コラム第64回でも紹介した僕の大好きな曲であるHank Mobley作の「This I
Dig of You」から始まるのですから、一聴するや否や身の毛もよだつような爽快感に達
してしまいます。この作品中でも、上記の「This I Dig of You」以外にHorace Silver
作の「The Cape Verdean Blues」やDexter Gordon作の「Montmartre」などといったミュー
ジシャンオリジナルによるハードバップ名曲も演奏されていますので魅力山盛りであ
り、直ちに僕の愛聴盤に仲間入りする事となったのでした。
 先に述べたように、新譜作品の情報を得る事は次第に困難を極めつつありますが、
反面自分のお気に入りの作品と出会った時などにはあたかも宝探しのような何物にも
代え難い喜びがあり、どうやら僕はこの世界から抜け出せそうにもありません。
 ではまた来月、春近しとは言えまだまだ冷え込む日々が続きますが、春の到来を楽
しみにしつつ皆様どうぞお元気でお過ごし下さい。
                      (2009年3月10日 記)