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「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第80回 マシュマロレーベルが教えてくれたデンマークのピアニスト達
これまでにもううんざりするくらい述べてきた事なのですが、ジャズレコード〜CD
のコレクションを始めて35年以上も経過すると、コレクション当初のあれも欲しいこ
れも欲しいとの初々しい気持ちが遠いものとなってきます。最近では、毎月発売され
るスイングジャーナル誌を眺めていても、下手をすると触手を伸ばしたくなるような
新譜にお目にかかれないとの次第も起こりうる程なのです。
そのような状況の中で、今年の2月号の新譜紹介を見ていた際に、ある頁で僕は目が
止まって釘付けになるような気持ちを感じたのでした。それは、横浜の上不三雄さん
という方が主催されるマシュマロレーベルから発売された3枚のCD、すなわち「Minor
Meeting/Carsten Dahl Trio」・「Estate/Kasper Villaume Trio」・「Introducing
Olivier Antunes/Olivier Antunes Trio」という3人のデンマーク人のピアニストのト
リオによる作品を紹介した頁を見た時だったのです。これらの作品は新譜ではなく、
いずれも数年前にマシュマロレーベルから発表されたものを新たにリマスタリングの
上各2000円との廉価盤として再発されたものでした。しかし、僕はCarsten Dahlのみ
はその後に録音された「Blue Train」という作品を所有していたためその名を記憶し
ていたものの、残りの2人のピアニストに関してはこれらの作品の存在はおろか、ピア
ニスト達の名前自体すらも全く知らないとの状況だったのでした。しかし、何となく
ジャジーな雰囲気を漂わせるジャケットにも惹かれて試しにOlivier Antunes Trio盤
を購入してみたところ、これが大当たり! 結局次から次へと、最終的には3枚共全部
を購入するハメとなってしまいました。
彼らは、Carsten Dahlが1967年生まれ、Olivier Antunes が1973年生まれ、Kasper
Villaumeが1974年生まれといずれもまだまだ若く、これからが嘱望されるデンマーク
が誇るピアニスト達です。この3枚の作品はいずれもプロデューサーの上不さんの御意
向もあるのでしょうが、きわめてオーソドックスなスタイルの演奏が繰り広げられて
います。さあ、そうなると久しぶりに僕のコレクター心に火が点る次第となってくる
のです! 僕はネットを駆使して、それまで自分が全く知らなかった事も棚に上げて、
Kasper VillaumeとOlivier Antunesとは果たしてどのような経歴のピアニストなのか、
また彼らはマシュマロレーベルの作品以外でどのようなCDを発表しているのか等に関
して全力で調べる事となりました。そしてその結果、新たにKasper Villaume Trioの
「117 Ditmas Avenue」という作品とOlivier Antunes Trioの「1`st Sketches」とい
う作品とを入手することが出来たのでした。流石に若きピアニストらしく、これら
のCDではマシュマロ盤と比較してより激しい演奏が展開されているとの共通点があり
ますが、いずれも聴いていて清々しい印象を感じ取る事が出来る作品です。特に前者
は何と、僕が本コラム第73回で紹介した「ジャズ批評 133号 ピアノトリオ最前
線2006」および本コラム第78回で紹介した「Jazzとびっきり新定盤500+500」で共に紹
介されている作品だったのです。いつもながら魅力的な文章をしたためられる、
MOONKSのメンバーである永野敦史さんによる紹介文を例によって少し引用させて頂き
ましょう。 “キャスパー・ヴィヨームは1974年生まれ、アメリカンスタイルのデンマー
ク人ピアニスト。力強いプレイと豊かな歌心が魅力。ヴィヨームがどうしてもドラム
スのジェフ・ワッツと共演したくて渡米して吹き込んだ1枚。ワッツは今も昔もモテモ
テのドラマーだ。マシュマロ盤の歌心溢れるテイストとは一転、ガッツあるプレイを
聴かせる。1曲目の「プリーズ・エンターテイン」での強力なピアノで熱くなった後は、
4曲目「オータム・ノクターン」の歌心でクールダウン。”
こんな紹介文を読むと、誰でもCDショップまで走りたいような気分になってしまい
ますよね。という次第で、ここ数ヶ月の僕は、この魅力的な3人のデンマークのピアニ
スト達を追っかける事で、久しぶりに熱くなってしまいました。このような素敵なピ
アニストを教えてくれたマシュマロレーベルの上不さんに対しては、心底感謝の気持
ちで一杯です。いつも述べる事ですが、まだまだジャズは奥が深く、時にこのような
魅力的なミュージシャンを新たに発見したりすると、僕はレコードコレクションを始
めた遠い昔の頃に戻ったかのようなフレッシュな気分を感じる事が出来るのです。
ではまた来月、梅雨も明けないうちから早くも真夏のような日々が続きますが、皆
様どうぞ体調に気をつけてお過ごし下さい。
(2008年7月10日 記)
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