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「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第71回 “「ミスターケリーズ」がN.Y.に”再び
もう5年前の出来事になりますが、僕はSteve Davis(tb)、Harold Mabern(p)、Nat
Reeves(b)、Joe Farnnsworth(ds)のサイドメンを従えたEric Alexander Quintetによ
るライブを大阪堂島の「ミスターケリーズ」まで聴きに行き、その際に得られた感動
を“「ミスターケリーズ」がN.Y.と化した夜”とのタイトルで本コラム第12回で述べ
ました。そして5年経った今年の8月2日に、同じく「ミスターケリーズ」で、その
時の感動を再現するかのようなライブをまたまた経験する事が出来たのです。
今回のメンバーは、リズムセクションは前回と全く変わらぬHarold Mabern(p)、
Nat Reeves(b)、Joe Farnnsworth(ds)のトリオから構成されていましたが、フロント
のEric Alexanderの相棒は前回のトロンボーンのSteve Davisから変わって、何と!
同じテナーサックスのGrant Stewartとの、前回にも増してより強力な布陣となって
いたのでした。Grant Stewartというテナー奏者については本コラム第58回でも取り
上げましたが、Eric AlexanderおよびGrant Stewartの2人は共に、本コラム第46回
および第47回で紹介したニューヨークのジャズクラブ“Smalls”や“Smoke”などを
根城として演奏活動を続けており、現代のニューヨークのメインストリームジャズシー
ンを牽引する最も注目のジャズミュージシャンであると言っても過言ではないでしょ
う。その上に、この2人は余程相性が良い様であり、本国でも双頭リーダーバンドを
結成して定期的に活動を行なっているとの事ですので、当日は嫌が上にも僕の期待は
高まるばかりとなりました。
彼らの双頭リーダーバンドは“Reeds and Deeds”とのグループ名を用いています
が、このバンドの名称はマルチサックス奏者であるRoland Kirkが、1963年にMercury
レーベルに吹き込んだレコードのアルバムタイトルから拝借したものだそうです。そ
して、彼らはこれまでに“Wailin`”“Cookin`”との2枚のアルバムをいずれ
もCriss Crossレーベルから発表しています。CDのライナーノーツでも触れられてい
ますが、これらのアルバムタイトルは、かの偉大なMiles Davisが1950年代
にPrestigeレーベルに吹き込み、黄金の4部作と呼ばれている“Workin`”“Cookin`”
“Relaxin`”“Steamin`”を彷彿とさせるものであり、現代のモダンジャズの王道に
立とうとの彼らの強い意気込みを反映しているのかも知れません。
さて当日、入れ替え制でわずか1時間のステージでしたが、予想通り僕の期待を全
く裏切る事のない素晴らしいライブでした。これまでにもテナーサックスのデュオに
よるグループというのは数多存在しており、著名なデュエットをざっと挙げるだけで
も、Dexter Gordon&Wardell Gray、Al Cohn&Zoot Sims、Sonny Stitt&Gene
Ammons、Eddie Lockjaw Davis&Johnny Griffinなどの名前が直ちに浮んできます。
しかし、この日のテナーデュオはこれらの先人達と比べて決してひけをとらないばか
りか、熱狂度という点ではむしろ過去の偉大なミュージシャン達を凌駕するものでし
た。2人の音色には微妙な差異があり、Eric Alexanderは比較的明るく暖かいトーン
であるのに対して、Grant Stewartは少し不良っほいダークな音色といった感じです。
このような印象を感じる事ができるのも、ビッグな2人のミュージシャンのソロを交
互に聴く事が出来るテナーデュオによるライブならばこその特権と言えるでしょう。
そして、まるでシャワーを浴びるかの如く、彼らの淀みのないアドリブソロを繰り返
し交互に聴く事が出来るのですから、これはもう熱狂しない方が不思議と言わざるを
得ません。
その上に、このグループの演奏をより締りのあるものにしている一因として、ピア
ノのHarold Mabernの存在を挙げない訳にはいかないでしょう。“Reeds and Deeds”
の2枚のCDでは、本コラム第29回で紹介したDavid Hazeltineがレギュラーピアニス
トの椅子に坐っています。David Hazeltineも無論僕の大好きな素晴らしいピアニス
トですが、今年で満71歳となるベテランピアニストのややパ−カッシブでブルージー
な演奏がまた、2人のテナー奏者には掛け替えのないものであるとの念を強くしまし
た。
“ニューヨークに行きたい”とずっと念じながらも、僕は本コラム第7回で述べ
た2001年の旅行以降は全くその機会に恵まれていません。でもこのような本場ニュー
ヨーク直来のジャズに肌を触れると、僕はやっぱりうなされるように言ってしまうの
です。“ニューヨークに行きたい”…と。
ではまた来月、皆様どうぞこの深紅の秋の良き季節を大いにお楽しみ下さい。
(2007年10月10日 記)
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