「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第66回 今またジャズDVDが面白いぞ 

 僕はレコードやCDでジャズを聴いて楽しむのも勿論大好きですが、古いモノクロの
ジャズの映像を見る事もまた大好きだという事は、本コラム第11回で既に述べました。
思い返すと、このコラムを書いたのはほんの5年前ですが、往時はまだまだビデオの
方が主体だったのに対して現在ではもうすっかりDVDが主流となり、ビデオテープな
んてあと数年も経てば闇に葬られそうな勢いです。こんな事を考えると、ここ数年の
我々のライフスタイルの変化の早さに関してはただただ舌を巻くばかりです。人間な
んて、19世紀までは多分何千年間もほとんど変わらないスタイルで暮らしてきたので
しょうが、20世紀になって以降電気が普及し、ラジオ放送が始まり、電話が開発され、
そして僕が生まれた1950年代にはいよいよテレビの放送が始まるまでに至りました。
そのお蔭で僕達は、我々の御先祖様と比べて日々の生活の中に実に多様な楽しみを見
い出す事が出来るようになった訳です。文明の進歩に関してはこの10年間でさらに加
速度がついた感は否めず、例えば10年前にはごく一部の人しか所有していなかった携
帯電話一つを例に挙げても、今では大人は言うに及ばず小学生ですら持っていても不
思議のないような状態です。そして、AVのソフトとしてはもうすっかりDVDが定着し
たという感があります。
 古いジャズのモノクロ映像のソフトとして、本コラム第11回では「Jazz Scene USA」
と「Jazz Casual」というシリーズを紹介しましたが、以降はそれ程目立った動きは
ありませんでした。しかし、昨年辺りからまたまた魅力的なジャズ映像のDVDが発掘
されて販売されるようになり、僕は嬉しくて目が離せない状態です。中でも特に注目
のシリーズとしては、昨年秋に本邦でもUniversal社から発売された「Jazz Icons」
と輸入盤で新作がどんどん発売されつつある「Impro-Jazz」が挙げられます。前者
は1950年代から1970年代までの幅広い時期に収録された映像であり、1970年代に録画
されたソフトはカラー映像で撮影されています。しかしノスタルジックなモノクロ画
面が好きな僕は、「Art Blakey & Jazz Messengers Live in `58」・「Ella
Fitzgerald Live in`57 & `63」・「Count Basie Live in `62」などの古い作品
を購入しました。一方、「Impro-Jazz」は既にかなりの種類のソフトが市場に出回っ
ており、それらのうちの大部分は以前にレーザーディスクやビデオで既発売のものが
多いとの事です。しかし、元のソフトは既にほとんどが入手困難な状態になっており、
さらに今回の発売に際して画像が格段に良くなっているものが多いとの事ですので、
これらの作品の発売は多くのファンにとって大いに歓迎すべきものでしょう。
 「Impro-Jazz」シリーズの中では、僕は「Art Blakey & Jazz Messengers Tokyo
1961+London 1965」・「Miles Davis Quintet European Tour 1967」・「Eric
Dolphy Stockholm 1964 Antibes 1960」などを入手しましたが、ここで最も注目に
値する作品はやはり何と言ってもMiles Davis Quintet とEric Dolphyの作品でしょ
う。
 Miles Davis Quintetのものは、Miles Davis(tp)・Wayne Shorter(ts)・Herbie
Hancock(p)・Ron Carter(b)・Tony Williams(ds)の黄金クインテットから成る1967年
の欧州ツアー時のライブの画像ですが、Miles は1969年にはメンバーチェンジを図っ
てエレクトリックサウンドへの道を走り出しますので、いわばこの黄金クインテット
による最晩年の演奏という事になります。僕がジャズを聴きはじめた1972年には、
Milesは既に髪をのばして大きなサングラスをかけ、派手な衣装で電気トランペット
によるエレクトリックジャズを演奏していたのですが、わずか5年前にはまだ髪は短
くびしっとスーツを着こなしてモダンジャズを演奏していた事をこうして目の当たり
にすると、何だかジャズの歴史が実感できて感慨深い気分にさせられてしまいます。
 一方、Eric DolphyのDVDはすべてがCharles Mingusのセクステットによるものであ
り、Mingusのリーダー作品と言っても過言ではありません。ここでは、以前にも発売
された1964年のノルウエーでのライブの翌日のリハーサル風景が収められているのも
面白いのですが、何と言っても1960年のBud Powell(!)をメンバーに含んだMingusの
セクステットの演奏がとりわけ興味深く思われます。収録曲は“I`ll remember
April”ただ1曲なのですが、セクステットによる演奏であるにも関わらずPowellは
きわめてマイペースで、唸り声を上げながらかなり長いピアノソロを弾くあたり、
“流石、ジャズの巨人!”との感を強くしてしまいます。こうして、古い映像も含め
た様々はスタイルでジャズを楽しむ事ができるなんて、本当に楽しい事だと実感せざ
るを得ません。
 ではまた来月、皆様どうぞこの緑豊かな新緑の季節を存分に満喫しつつお過ごし下
さい。
                            (2007年5月10日 記)