「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第9回 Tom BrigandiとLate Night New York Band

 今年の上半期に発売されたジャズ新譜CDの中で僕のお気に入りは何だったかなと考
えると、“Eric Alexanderのサイドメン盤に注目すべし”とのキーワードを挙げる事
ができるように思います。Eric Alexanderについては、ジャズファンであれば多分今
やその名を御存じでない方はおられないのではないでしょうか?スイングジャーナ
ル2001年12月号に掲載されている最新の海外ジャズメン読者人気投票のテナーサック
ス部門でも、Sonny Rollins、Michael Breckerに次いで堂々第3位にランクされてい
ますし、このコラムの第2回で述べた“One For All”というグループのサックス奏
者としても活躍中です。そして、彼がサイドメンとして加わった最近のアルバムには、
Harold Mabernの「Kiss of Fire」(ヴィ-ナスTKCV35301)や“One For All”の同僚の
ピアニストであるDavid Hazeltineによる「The Classic Trio meets Eric Alexander」
(Sharp Nine 1023-2)等の優れものがありますが、とりわけTom Brigandiというベー
シストをリ−ダ−とするグループは1999年に録音された第1作「Late Night New
York」(Bass On Top SJFP199)に次いで今年になって第2作「After Hours」(Bass On
Top SJFP200)を発表すると共に、グループ名もLate Night New York Bandと名乗るよ
うになり、注目されつつあります。
 僕がTom Brigandiの第1作「Late Night New York」というCDの存在を初めて知っ
たのは、スイングジャーナル2001年9月号に掲載されたHMVの広告のページからでし
た。このCDの紹介文は余りに魅力的でしたので、以下に全文を引用させて頂きます。
『“サイドメンのエリック・アレキサンダーは注意せよ!”が、心あるジャズファン
の合言葉だが、リリースから少し経ったこのアルバムの“はじめの5秒”で感じられ
ない不感症のジャズファンは悲しい。ナンシ−・ケリーの伴奏でお馴染みのベーシス
ト、トム・ブリガンディと同じくチームを組んでいるディーノ・ロシートのピアノが、
ハードバップが持っていた“あの魔力”を思い出させてくれる。ここでのエリックは
素晴らしく荒々しく若々しい。ジャズを感じたい人に聴かせたい今月の御用達盤!』
どうです?!この文章を読むと、直ちにこのCDを聴きたくなるでしょう?という訳で、
僕も早速このCDを探しに神戸のCDショップへと赴いたのですが、ところが当時はまだ
彼等はそれ程注目されていなかった様で、三ノ宮のHMVを含めてどの店に行ってもこ
のCDは見つからず、結局HMVのインターネットでの通信販売で購入せざるを得ません
でした。しかし、どうやらその後このCDがじわじわと人気を呼んだ様で、今年になっ
て第2作「After Hours」が発売された際には、HMV三ノ宮店では注目盤扱いとして何
枚も重ねて置かれているという状態であり、第1作を入手するのに苦労した僕として
は、“わずか半年間で随分扱いが変わったなあ”と何だか嬉しい様な複雑な気分になっ
てしまいました。そして、この2作品共にハードバップを基調として現代風味を加味
したとても気持ちの良い作品に仕上がっています。
 Tom Brigandiというベーシストの名前は、僕も「Late Night New York」以前には
全く耳にしたことがありませんでした。しかし、HMVのインターネットで検索したミュー
ジシャン情報に基づくと、『マンジョーネブラザースやサル・ニスティコを輩出した
ニューヨーク州シラキューソに生まれ、8才からドラムを始める。高校のジャズバン
ドで乞われてベースを始めたが、数カ月で腕を上げジョー・ロバーノを始めとする地
元のミュージシャンとのギグで腕前を発揮、バークリ−音楽院に入学した。卒業後は、
クルージングのハウスバンドの仕事に就き、その後はカリフォルニアのクラブでのレ
ギュラーバンドの仕事をした。1986年東海岸に戻り、バリトンサックスのニック・ブ
リグノラのバンドに参加、さらに1987年〜1988年にはテナーサックスのJRモンテロー
ズ、1994年〜1997年にはチャック・マンジョーネのバンドに在籍した。』との事でか
なりのキャリアのミュージシャンの様であり、今さらながらアメリカジャズシーンの
ミュージシャンの層の厚さを痛感してしまいます。
 コラム第2回でも同じような事を述べましたが、このように輸入盤で自分のお気に
入りのCDを見つけると何だか随分得をしたような気分になり、自分がジャズをますま
す好きになっていくのを感じてしまいます。
 ではまた来月、毎日うだるような暑さで僕はビールづけになっておりますが、皆様
どうぞ頑張ってお過ごし下さい。                       
    (2002年8月10日 記)
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