「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第48回 阪神優勝を祝してJ.F.K.を聴いてみよう

 ついに今年のプロ野球も終わってしまい、僕にとっては来年の春までまた寂しい季
節を過ごさなければならない事となります。ただ今年は、日本シリーズでは惨敗した
ものの、阪神タイガースのセ・リーグ優勝という開幕前には予想さえしなかった嬉し
い誤算がありました。僕は生まれながらの西宮っ子ですので、勿論阪神ファンです。
但し、1985年の優勝当時僕は毎日阪神電車に乗って大阪の福島にある職場に通ってい
たのですが、夏を過ぎてもしかすると阪神が優勝するかも知れないという頃から、ハッ
ピを着て電車の中や駅のプラットホームなどで所構わずに大声で“六甲おろし”を合
唱するといった非常識な輩が登場し、嫌な思いをしたという苦い記憶が残っています。
従って、甲子園球場に観戦に行って阪神が勝つと僕としても勿論嬉しいのですが、周
りでコンバットマーチを唄ったり風船を飛ばしたりしている熱狂的なファンに対して
何か冷ややかな気持ちを感じてしまうという、複雑なジレンマが僕の心の中には存在
しているのです。
 そんな事はさておき、今年の阪神の勝因を分析すると、先頭打者の赤星の起動力や、
シーツ・金本・今岡のクリーンアップをシーズンを通して固定できた等の要因も挙げ
られますが、最大の理由はジェフ・ウイリアムス、藤川球児、久保田智之のいわゆる
“J.F.K.”と呼ばれる中継ぎ〜抑え投手陣の充実という点に尽きるでしょう。僕が子
供だった頃には、400勝投手の金田正一を始め鉄腕稲尾和久やアンダースローの杉浦
忠などといった名投手と呼ばれる人達は完投および連投する事が当たり前の時代でし
たが、現在ではプロ野球も分業制となり、先発投手はとりあえず6回までを押さえた
ら合格と見なされるようになりつつあります。このようなシステムはメジャーリーグ
において日本よりもいち早く導入されており、中継ぎは“セットアッパー”、抑えは
“クローザー”、そして両者をまとめて“ブルペン”という洒落た表現が用いられま
す。従って、“どこそこのチームは先発投手陣は手薄だけれど、ブルペンは充実して
いるから終盤の接戦には強いよね”などと呟いたりすると、周囲の人達からはひとか
どのメジャー通として評価される事間違いなしです。
 ところで、この“J.F.K.”という言葉を冠したジャズグループがかつて存在してい
た事を、皆様は御存知でしょうか?一般的には余り知られていないのですが、1961年
から1962年にかけてかのRiversideレーベルに2枚のアルバムを吹き込んだ“The
J.F.K. Quintet”なる5人組のグループがいたのです。1980年代を中心とした日本で
のアナログレコード復刻ブームの頃に、Riversideレーベルのめぼしいレコードは
“ここまでやるか?”と言うほどのマイナーな作品に至るまで再発されたのですが、
彼らの2枚のアルバムはこの復刻ブームの際ですらリストから漏れて、結局1度も再
発される事はなかったとの悲しい運命を辿りました。このグループはRay
Codrington(Tp)、Andy White(As)、Harry Killgo(p)、Walter Booker(b)、Carl
Newman(Ds)の5人のメンバーから構成されていましたが、この2枚のアルバムが結局
復刻に至らなかった最大の理由は、彼らのうちの誰一人としてその後のジャズ界に名
を残すようなミュージシャンに成り得なかったとの点に尽きるのではないかと思いま
す。
 このグループが“J.F.K.”を名乗った理由として、今年の阪神タイガースの
“J.F.K.”のようにメンバー達のイニシャルに起因するものではない様です。これは
僕の推測ですが、このグループがホワイトハウスの存在するWashington D.C.の出身
であった事を縁として、新進気鋭のグループである事を強調する目的で当時人気絶頂
であった時の大統領John F. Kennedyのイニシャルを拝借したのではないでしょうか。
そして肝心の演奏内容はと言うと、勿論名演という言葉とは程遠いものかも知れませ
んが、ハードバップスタイルを基調としながらもジャズロック的な曲があったり、時
にはややフリーがかったりまた時にはモードぼくなったりとの演奏スタイルであり、
1961年〜1962年というジャズ史における極めて微妙な年代を反映する時代の証人的な
作品として、それなりに楽しく聴く事のできるものです。
 このような枝葉末節的な作品まで集めていくと、まさしく泥沼の世界に足を踏み入
れて行く事になりそうですが、これもまたジャズの楽しみの1つと言えるのではない
でしょうか?こんなマイナーなミュージシャンを紹介したからといって、どうか僕の
事を“オタクやな〜”などとは呼ばないで下さい。だって何と言っても、今年は阪神
タイガースが優勝したのですから!
 ではまた来月、そろそろ寒くなってきましたが皆様どうぞ風邪など召されずにお過
ごし下さい。
                           (2005年11月10日 記)