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「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第46回 “Smalls”に行きたい!
僕が生まれて初めてニューヨークへ行った時の体験記は本コラムの第7回で既に報
告しましたが、残念ながらそれ以降にはニューヨークを訪れる機会には恵まれていま
せん。ジャズクラブに関しては、前回の訪問時には老舗の“Village Vanguard”と
“Birdland”とに行ったのですが、僕が本当に聴きたいのはニューヨークの前途有望
な若手ミュージシャン達による現在進行形のモダンジャズであり、そのようなジャズ
を聴かせてくれる代表格のお店が“Smalls”だったのです。
ところが“Smalls”は諸事情により2003年5月に閉店を余儀無くされたとの記事を
以前に目にしてガッカリしていたのですが、スイングジャーナル誌の本年の5月号を
読んでいたところ「“Smalls”再オープン!」との嬉しい記事が目に飛び込んできま
した。その記事内容によると、「家賃問題で1年半前に店を閉めざるを得なかった
“Smalls”だが、その後オープンした別のバーには、『“Smalls”はどこ?』と一晩
に12人ぐらいが尋ねてきたという。結局バーは余りうまくいかなかった。それでその
オーナーは、これほど“Smalls”が求められているなら手を組んだ方が得策と、再オー
プンをもちかけたといういきさつだ。その結果、バーの方は元々リースのあったブラ
ジル人のオーナーが仕切り、ジャズの方は“Smalls”の創始者で、近所でもう一つの
ジャズクラブ“Fat Cat”も手掛けるミッチ・ボーデン氏が仕切るという形態だ」と
の現状のようです。
たまたまその頃、僕が通っている三ノ宮のジャズバー“Goodman”の常連であるN氏
が「このピアノ良いですよ」とFrank Hewittというピアニストによるトリオの“Not
Afraid to Live”というCDを貸して下さいました。「こんなピアニスト全く知らんな
あ」と思いながらもとりわけ僕の関心を惹いたのは、その作品が“Smalls”でライブ
録音されたものであり、その上にCDのレーベル名までもがSmalls Recordsという名称
だった事でした。すると、絶妙のタイミングで今度はスイングジャーナル誌の6月号
に「ジャズクラブの知名度を凌ぐか?スモールズ・レコーズに注目せよ!」とのタイ
トルの記事が掲載されたのです。その内容を拾ってみますと、「スモールズ・レコー
ズの創始者であるルーク・ケイバン氏が“Smalls”と出会ったのは大学院を出てまも
ない1995年のこと。若手や老アーティストたちが夜明けまでエネルギッシュなプレイ
を繰り広げていた店にすっかり魅了され、ここで伝説のビバップ・ピアニストFrank
Hewittに出会った事が彼の人生を変えた。ルークはその時、『まさにここでジャズの
ルネッサンスが起きている』と思ったそうだ。今、彼らの音楽が理解されなくても、
将来理解される時代が来る日のために、誰かが音を残さなくてはならないと強く感じ、
自費で録音機材を買って1996年から同店で録音作業を始めた。そして、当時皮肉にも
リースの問題で閉店してしまっていた“Smalls”のオーナーのミッチ・ボーデン氏か
ら“Smalls”をレーベル名に使用することについて快諾を得てスモールズ・レコーズ
を立ち上げ、2004年にその第1弾を発売した」といった経緯だそうです。
Frank Hewittは残念ながら2002年に67歳で既にこの世を去ってしまったとの事です
が、そのプレイスタイルはややパーカッシブであるものの確かに伝統に根ざしたもの
であり、“どうしてこのような素晴らしいピアニストが全く評価されないまま存在し
ていたんだろう”と首をかしげざるを得ません。そしてSmalls Recordsには他にどの
ような作品があるのだろうかと興味を持ってホームページを検索したところ、現在ま
でに10枚の作品が発表されていました。僕はHMVのインターネット販売を通じて、こ
れらの作品の中から上記のFrank HewittのCDおよびSacha Perryというピアニストの
“Eretik”という作品とWilliam Ashというギタリストの“The Phoenix”という作品
とを購入してみました。この2人はFrank Hewittとは異なり、現在“Smalls”で活躍
中の若手のミュージシャンであるとの事です。CDを聴く限りまだまだ未完成で発展途
上といった印象は否めませんが、そこには僕の求める“まさしく現在進行形のニュー
ヨークの息吹き”が感じられ、今直ぐにでも飛行機に乗って“Smalls”に向かいたい
ような気分にさせられてしまいます。という次第で、どうやらSmalls Recordsは僕に
新たな楽しみを与えてくれそうな期待感大なのです。
ではまた来月、台風が頻発する妙な気候ですが皆様どうぞお元気でお過ごし下さい。
(2005年9月10日 記)
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