「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第45回 真夏に聴きたい小林陽一&Good Fellas

 小林陽一さんは日本のアートブレーキーとも呼ぶべき素場らしいジャズドラマーで
す。彼がリーダーを務めるGood Fellas(グッドフェローズ)というグループは2管
のフロントから成るクインテット編成を基本としており、僕はこのグループは日本最
高のバップバンドであると信じて疑いません。Good Fellasは1990年代前半からずっ
と恒常的な活動を続けていますが、同バンドからは松島啓之・岡崎好朗(以上Tp)、
山田 穣・三木俊雄・岡 淳(以上Sax)などといった現在日本のジャズ界のトップで
活躍中のミュージシャンを多数輩出しており、こういった点が小林さんがアートブレー
キーにたとえられる由縁なのでしょう。
 小林さんのホームページから引用して彼の経歴を紹介しますと、「1953年秋田市生
まれ。中学からロックバンドでスタート、秋田商業高でブラバンに入りプロを決意す
る。高卒後上京、昼働きながら東京コンセルヴァトアール尚美の夜学に入学。1976年
同校卒業後プロ入り、自己のクインテットを結成する。1982年初渡米、3年間マンハッ
タンの路上でストリートミュージシャンとして修行をつむ。1985年一旦帰国、NYCで
作った『What's this』でキングレコードからデビューし、ジャパニーズジャズメッ
センジャーズで活動。1989年再度NYCに渡り3年間演奏活動に入り、1991年NYCの若手
を集めた『GOOD FELLAS』がヒット。以降は日本に拠点を置き和製グッドフェローズ
で活躍し、現在まで通算15枚のアルバムを発表。1992年SJ誌批評家投票、注目のドラ
マー部門大坂昌彦と並んで1位。以降も上位ランキング中。2001年SJ誌人気投票コン
ボ部門5位に入る。2003年12月、50才を記念にCD『モンクストリオ/ニューヨークに
恋して』をロンカーター(B),スティーブンスコット(P)を迎えて製作。反響を呼ぶ。
2004年SJ誌人気投票ドラマー部門5位。2006年でクインテット結成30周年を迎える人
気バップ系ドラマー。」との素晴らしい経歴を有したミュージシャンです。
 上記の経歴の中でも紹介されていますが、小林さんは日本人から成るGood Fellas
とは別に、特に親交の厚いVincent Hearring(As)などを中心とした外国人ミュージシャ
ンを率いて国際版のGood Fellasによる演奏活動も行なっておられ、この演奏は1991
年から1993年にかけて吹き込まれた“Good Fellas ”から“Good Fellas 3”の3枚
のCDとして発売されています。この3枚のCDはいずれも甲乙付け難い素場らしい出来
栄の作品ですが、僕にとってはとりわけ“Good Fellas 2”が記憶に残ります。その
理由として、河原英三さんという評論家の方がジャズライフ誌に書かれたこの作品に
対する評論文が余りに僕の心を魅了するものだったからという付加的な要因があるの
ですが、ジャズライフ1992年9月号からその文章の一部を抜粋してみます。「小林陽
一の志向する音楽は、ジャズ喫茶の扉を開けた時に聴こえてきた音がする。真夏の暑
い午後、アスファルトの照り返しに大汗をかきながら坂道を登って、目当てのジャズ
喫茶の扉を開けたとたん、クーラーの心地よい冷気と共に大音量で流れたきたあの音
だ。真夏の太陽と青空から逃れて、ほの暗く涼しい店内に落ち着いた時に感じる安堵
感。それに通じるものを味わえる。彼の中には、こういったジャズに対する愛着が沸々
とたぎっているのだろう。小林と同世代のぼくには、彼の気持ちを理解するのは難し
くない。たぶん彼は、現在とても幸福な気分でプレイしているのだと思う。」どうで
す、ジャズが本当に好きな人だったら諸手を挙げて心の底から共感したくなるような
素晴らしい文章だと思いませんか?そしてこの名文の影響もあって、僕は特に大汗を
かくような真夏には無性に小林陽一&Good FellasのCDが聴きたくなってくるのです。
 そして、Good Fellas絡みではないのですが今年僕にとってとても嬉しい出来事が
ありました。それは、小林陽一さんと本コラム第6回で紹介した吉岡秀晃さんとが共
演されたピアノトリオのCDが発売されたという事なのです。僕にとっての日本最高の
バップピアニストとバップドラマーとの出会い、「A Time for Love」(What's New
Records)と題されたその作品は想像に違わぬ素晴らしさであり、僕の長年の渇を癒し
てくれるような気分にさえなってしまいました。その上、今年の5月には芦屋「Left
Alone」でお2人の共演ライブを生で聴く事までできて、本当に幸せ一杯な気持ちに
達する事ができました。皆様もよろしければ是非共このCDを御一聴してみて下さい。
 ではまた来月、うだるような暑さが続きますが皆様どうぞ暑さに負けずにお過ごし
下さい。
                            (2005年8月10日 記)