「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第43回 Benny Baileyよ永遠なれ!

 Benny Baileyが逝ってしまいました。しかし、その死は新聞の死亡欄で報じられた
わけではなく、僕が彼の死を知る事となったのはスイングジャーナル誌の6月号の短
い記事によってでした。「エディ・ハリスとレス・マッキャンのヒット・アルバム
『スイス・ムーブメント』に参加してその名を高めたトランペットのベニー・ベイリー
は4月14日、アルステルダムのアパートで他界しているのを発見された。息をひきとっ
て2週間は経過していた模様という。ベニー・ベイリーは1925年8月13日オハイオ州
クリープランドの生まれで享年79歳。ベイリーはディージー・ガレスピー、ライオネ
ル・ハンプトン、クインシー・ジョーンズらのビッグ・バンドで活躍した後、60年代
に入ってドイツに移住、ケニー・クラーク=フランシー・ボラーン・ビッグ・バンド
やジュルジュ・グランツ・ビッグ・バンドなどでソロイストとして活躍を続けた。
1978年には前記ハリス/マッキャンのオールスターズに加わってモントルー・ジャズ
祭に出演、そのときのライブ・アルバムにおける熱演でその名を歴史に残すこととなっ
た」との内容ですが、死後2週間も発見されなかったという事は恐らく彼の人生の末
路が決して幸せなものではなかった事を意味するものであり、この記事を読んで僕は
何だか随分物悲しい気分になってしまいました。
 上記のスイングジャーナル誌の記事では彼の「Swiss Movement」への参加の功績ば
かりが強調されていましたが、実際には彼はハードバップスタイルの素晴らしいトラ
ンペッターとして数多くのリーダー作を吹き込んでいます。但し、アメリカのレーベ
ルから吹き込まれたのは“The Music of Quincy Jones”(Argo:1959年)、“Big
Brass”(Candid:1960年)程度であり、大部分は彼が渡欧して以降の主に1970年代以
後にヨーロッパのレーベルから発売されたものです。僕はヨーロッパのハードバップ
トランペッターとして、本コラムの第3回で紹介したDusko Goykovichと共にBenny
Baileyが大好きで、彼のレコードやCDを見つける度に購入してきました。その結果、
今回ざっと探してみたところ、彼のレコード・CDを各々8枚ずつ所有していました。
そしてその発売レーベルはと言うと、MPS・Ego・Jazz Craft・Hot House・Gemini・
Jazz4Ever・Enja・Laika・TCB等といった数多くの欧州のマイナーレーベルに及んで
います。
 これらの作品の中で、僕にとって入手に際して最も思い出深いレコードとしては、
“How Deep Can You Go?”(Sweden EMI)を挙げる事ができるでしょう。以前に、東
芝EMIがファン向けに発行している“Blue Note Club”という小冊子の34号で「マニ
アのみぞ知る『幻の名盤』を発掘せよ」との特集が組まれたのですが、その中で小林
岳人さんという方が、「編集方のリクエストをお受けして、半ば途方に暮れながらLP
棚の中をかき回し、ようやく抜き出したのがコレ。ヨ−ロッパへ渡った名トランペッ
ター、ベニー・ベイリーが同じく北欧に居を移したベーシスト、レッド・ミッチェル
を擁したクインテットでスウェーデンのEMI HARVESTへ1976年に吹き込んだ作品。決
して幻盤と呼べるほどのレアなモノではないが、今となっては軽く探してみてもなか
なか出てこない。演奏は、この時期のヨーロッパ盤の中でも上位に選別できる好内容。
(後略)」とのコメントと共に紹介されたのがこのアルバムだったのです。それ以降、
何とかこのレコードが入手できないかと僕は絶えず目を光らせていたのですが、よう
やく昨年にヤフ−のオークションで見つけて購入する事ができました。そして早速レ
コードをターンテーブルにのせて針を落としたところ、小林さんの紹介文通りの掛け
値無しの上質ハードバップの演奏のオンパレードであり、以降このレコードはまぎれ
もなく僕の宝物の1枚となったのです。
 その他の多くの作品でも彼は常にチャーミングなトランペットプレイを披露してく
れていますが、僕は特にピアノトリオをバックにしたワンホーンないしツーホーンの
スタイルでの演奏を気にいっています。このようなアルバムを何枚か紹介しますと、
“Serenade to a Planet”(Ego:1976年)、“For Heaven`s Sake”(Hot House:1988
年)、“While My Lady Sleeps”(Gemini:1990年)、“On The Corner”(Jazz4Ever:
1995年 但し一部の演奏はピアノトリオのみ)、“Angel Eyes”(Laika:1995年)など
を挙げる事ができます。勿論これらのアルバムの中には既に廃盤となってしまったも
のも多く含まれていますが、今回HMVのホームページで検索したところ予想以上に多
くの作品がまだカタログに残っていました。しかし恐らくこれらのアルバムも遠から
ず姿を消してしまうものと危惧されます。従って、皆様よろしければできるだけ早く
彼のアルバムを何枚か購入してみて、もしお気に召せばBenny Baileyの名前を永遠に
記憶の片隅にとどめておいて頂きたいと切に念じる次第です。
 ではまた来月、そろそろ梅雨のうっとおしい季節となりますが皆様どうぞお元気で
お過ごし下さい。
                              (2005年
6月10日 記)