「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第41回 Jazz in Italy

 最近イタリアのジャズ界が活況を呈しているようです。勿論イタリアは以前からジャ
ズが盛んなお国柄で知られており、1960年代初頭にイタリアRCAに吹き込まれ
たGianni Basso(ts)〜Oscar Valdambrini(tp) QuintetやArmand Trovajoli(p)などの
作品が1990年代に本邦でLP復刻されて話題を呼んだ事もありましたし、Marco Di
MarcoやEnrico Pieranunziなどといった世界的に有名なベテランピアニストも存在し
ています。しかし、僕自身がイタリアジャズに注目するきっかけとなったのは、本コ
ラム第27回で紹介したJimmy Cobbの“Cobb Is Back In Italy!”(Azzurra)という作
品によってでした。
 この作品でピアノの椅子に座っているMassimo Faraoというミュージシャンの名前
を当時僕は全く知らなかったのですが“良くスイングするいいピアニストだなあ”と
感服していたところ、程なく日本の サウンドヒルズという会社からJimmy Cobbのリー
ダーアルバムが立続けに2枚発売されました。“Taking A Chance On Love”および
“Tribute to Wynton Kelly and Paul Chambers”と題されたこれらのアルバムはい
ずれもピアノトリオを主体とした演奏であり、且つこの2枚のCDにおいても同様
にMassimo Faraoがご機嫌なピアノプレイを聴かせてくれており、僕はすっかりこの
ピアニストに魅了されてしまいました。
 Massimo Faraoの経歴の詳細に関しては不明ですが、インターネットでの検索によっ
て辛うじて判明したデータによると、1965年イタリアのジェノバに生まれ、その後ア
メリカに渡って1993年にはNat Adderley Quintetに参加するものの、1995年本国に戻
り以後イタリアを中心に活躍中との事です。但し、近年イタリア本国でも彼の才能に
対して注目が集まっている様であり、2004年には彼の作品が随分多くリリースされま
した。僕はその内で“Romantic Melody”(Azzurra)とのタイトルの作品を購入してみ
ましたが、ただ「恋は水色」「サバの女王」「ム−ンリバ−」等のポピュラー曲を多
く収録したこの作品は僕にとってはいささか甘すぎるとの印象を拭いきれないもので
した。引き続いて彼は“Jazz LoungeーCinematic 1”“Jazz LoungeーCinematic 2”
(Azzurra)との映画音楽ばかりを集めた2枚の作品を発表し、かなりヒットした様で
すが、これらも恐らくやや甘めの仕上がりなのではないかと思います(但し未聴です
ので、もし間違っていたらご免なさい)。むしろ僕にとっては、ギタリストのJimmy
Villottiとの双頭リーダーによるQuartet作品である“Live in Cantina Bentivoglio”
(Azzurra)や、本年になって発売された“Just Swing、What Else?”(Azzurra)などの
作品の方がより好ましいものに感じられました。前者はイタリアのジャズクラブでの
ライブ演奏を収録したものであり、Miles Davisの1曲を除いた残りの全曲をMassimo
FaraoとJimmy Villottiとのオリジナル曲で占めた比較的ハードな演奏内容となって
います。一方後者は、Massimo Faraoのピアノトリオを中心に、曲によっては上記の
ギタリストのJimmy Villottiや伝説のサックス奏者であるRed Holloway(!)が参加し
ており、文字どおりタイトルそのままのスイング感に溢れた演奏が繰り広げられてい
ます。
 さらに、2004年の年末に前述のサウンドヒルズから、Fabrizio Bossoという名前の
これまたイタリア人のトランペッターのQuintetによる“Roma after Midnight”とい
う作品が発売されました。僕は勿論このトランペッターの名前もMassimo Faraoと同
様に全く知らなかったのですが、ただ「超怒級ハードバップ 2004年の最高傑作登場!
現代のジャズメッセンジャ−ズが蘇る!全身が震えるほどの熱さに感動の嵐!これを
聴いて感動しないジャズファンはいない!」とのまるで三文広告のような宣伝文に半
ば騙され、半信半疑でこのCDを買い求めました。ところが看板に偽り無し!その結果、
このCDは今年の僕のお正月休みを一層充実させてくれる小道具となりました。
 最近の澤野工房やガッツプロダクション等から発表される作品の充実振りから想像
する限り、何もイタリアだけではなく欧州諸国全体でジャズは熱く且つ充実している
ようです。僕の目は未だアメリカの方ばかり向いてしまうのですが、ことジャズに関
する限りどうやら今後万国共通の音楽として発展していくのではないでしょうか?
 ではまた来月、ようやく春めいてきましたが皆様どうぞこの良き季節を有意義にお
過ごし下さい。
                           (2005年4月10日 記)