「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第4回 金曜日の夜は「グッドマン」へ

 「ヴォイス」のホームページで他の店を紹介するのもいささか気が引けるのですが、
村田御夫妻の寛大さに感謝しつつ、今回は三ノ宮のJazz Bar「グッドマン」の話をし
たいと思います。
 現在の僕の“ジャジーライフ”(ジャズと関わりながら生きるという意味。ジャー
ジをはいて暮らすとかジャージー牛乳を飲みながら過ごすとかいう意味では決してあ
りません。念のため。)はと言いますと、自宅でレコードやCDを聴いたりピアノの練
習をする事以外では、週末に「ヴォイス」へ行ってコーヒーを飲みながらレコードを
聴かせて頂く事と、月に2回程度金曜日の夜に「グッドマン」へ行ってライブを楽し
む事が中心です。
 高島秀実マスターがJazz Bar「グッドマン」をトアロードに面したビルの地下1F
にオープンされたのは1976年の事であり、以後1995年の大震災で同ビルが打撃を受け
られたために転居を余儀なくされ、東門筋の店を経て1997年に現在の東急ハンズ東南
の生田ロードに面した「コーストフロムビル」5Fに移転されました。開店以来ずっ
とジャズライブを行ってこられましたが、現在の店に移転以後は毎週金曜日に関西の
トッププロミュージシャンによるライブを催されています。
 僕が「グッドマン」のライブに通うようになったのは比較的最近の事で、2年前に
仕事の勤務先が変わり、それ以前と比べて少し早く家に帰れるようになったため、か
ねてから念願だったジャズピアノの練習を始めようと思い立ち、「グッドマン」のマ
スターにピアノの先生を紹介してくれないかと依頼した事がきっかけでした。今から
思うとピアノ初心者の中年男のくせにプロのミュージシャンに習おうなどと考えた事
自体が全く身の程知らずだった訳ですが、マスターは心良く色々なピアニストに問い
合わせて下さり、結局高岡正人先生を紹介して頂きました。以後、弟子のはしくれと
してはせめて先生のライブは聴きにいかねばと考え、高岡さんのライブの日に通うよ
うになった事をきっかけにして、「グッドマン」のライブの楽しさにすっかりはまっ
てしまいました。それ以前の僕は、東京のミュージシャンが大阪や神戸に来た時に聴
きに行く事はしばしばあったのですが、関西在住のジャズミュージシャンの演奏を聴
く機会は余りありませんでした。しかし、関西のミュージシャンもCDを発表したりマ
スコミに紹介されたりする機会は少ないものの、演奏のレベル自体は東京のミュージ
シャンと比べても決してひけをとらないという事をひしひしと感じ、まさに目からウ
ロコの状態となりました。
 「グッドマン」のライブは比較的ピアノトリオが中心であり、中でも近秀樹・岩佐
康彦・高岡正人の3人が「グッドマン」出演ピアニストの3大巨匠といったところで
しょうか。近秀樹さんは昨年度には「中山正治大賞」も受賞され、関西のトップピア
ニストとしての風格十分です。最近は通常のピアノトリオの形態ではなく、クラリネッ
トやテナーサックスを加えた変則的なトリオでの演奏も楽しませてくれます。岩佐康
彦さんはその少し強面の風貌(失礼!)からは信じられないようなシングルトーン主体
のスィンギーなアドリブを聴かせてくれます。また、「グッドマン」のライブの特典
として、もしかすると決して笑えない小咄(またまた失礼!)を披露して頂けるかも知
れません。高岡正人さんに関しては、最も出来の悪い弟子である私が師匠の事をあれ
これ評するのは誠に僭越なのですが、繊細な中にも時に情熱的でとても美しいピアノ
を聴かせて頂けます。また、最近では京都の市川修さんや大阪の竹下清志さんといっ
た大御所も出演するようになり、演奏者の地域性も関西一円に拡がりつつあります。
ピアノトリオ以外ではギターの畑ひろしさんやボーカルの越智順子さん等も出演され
ますが、いずれにしてもこの店では高島マスターの眼鏡にかなったミュージシャンの
みが出演するといった状況であり、マスターの慧眼にはただただ恐れ入るばかりです。
 「グッドマン」のライブを魅力的なものにしているもう一つの要因としては、この
店にはいわゆるステージという場所がないため、ミュージシャンはカウンターの中で
演奏するというポジショニングになります。そのため、カウンターに座った客達は演
奏しているミュージシャンと対面する形となり、その事がミュージシャンと客との一
体感を高め、「グッドマン」でのライブが他の店と比べてより盛り上がりやすい状況
を作り上げているように思います。
 ライブの日が金曜日の夜という事もまたタイムリーであり、僕は1週間の仕事を無
事に終えたというささやかな安堵感とこれから週末を迎えるという開放感とに身を委
ねながら、素晴らしい演奏を耳にする事で至福の時を過ごす事ができるのです。
 ではまた来月、春の到来が待ち遠しいですが皆様どうぞお元気でお過ごし下さい。
                       (2002年3月10日 記)

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