「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第39回 素晴らしきコンポーザーTadd Dameron

 皆様はTadd Dameronというミュージシャンを御存知でしょうか?本来はピアニスト
なのですが、本コラムの第36回でも少し触れましたがむしろ魅力的な佳曲を書くコン
ポーザーとしてより広く知られている人です。但しその人生は必ずしも順風ではなかっ
た様であり、1917年に生まれた彼は全く正当な評価を得ぬままに1965年にわずか48歳
でこの世を去っています。
 僕も以前から、「If you could see me now」や「Our delight」等といった名曲の
作曲者として彼の名前は記憶していたものの、特に注目するという程ではありません
でした。その僕が彼に興味を抱いたのは、関西ジャズ界のトップドラマーの1人であ
る東敏之氏が昨年度に「中山正治大賞」を受賞された事がきっかけでした。東さんは
「中山正治大賞」受賞に対する謝辞を自身のホームページに綴っておられますが、大
変魅力的な文章ですのでその全文をここに再掲させて頂きます。
 『光栄にも、2004年度中山正治ジャズ大賞を頂いた。今まで生きてきて「賞」をも
らうのは、小学2年のときの“健康優良児”の表彰をもらって以来である。長く、好
きな事だけをやって、名誉な賞を頂くのは本当に幸せである。6月6日ブルーノート大
阪にて受賞ライブを行った。前出の“健康優良児”をもらった際には、当たり前だが
「受賞ライブ」はなかった。つまり、生涯初のイベントである。正直、前日夜からそ
わそわしていた。いつものライブとは勝手が違う。なんせブルーノートだ。
15年ほど前、ブルーノートでは海外アーティストのパフォーマンスが終わり、深夜0
時頃から地元関西のプロミュージシャンによるライブが、ほぼ毎夜行われていて、仕
事を終えた我々かけだしのミュージシャンは時折聞きに行っていた。そこで、忘れも
しない「正治バンド」を聞いた。テナーが宮 哲之さん、ピアノが竹下清志さん、ベー
スが中村新太郎さん、ドラムが中山正治さんのユニット。正治さんのあのソリッドで
パワフルで、大らかなドラムには憧れた。偶然にも、横で我々同様、身を乗り出して
聞いていた大きな黒人の人がいた。よく見るとあの偉大なディジー・ガレスピーだっ
た。
正治バンドが奏でていた、タッド・ダメロン作の「On a misty night」…。“いつか
は、この曲を自分のバンドでやりたい”と思い続けて、遂にそれが達成できた。この
舞台、この場面で「On a misty night」を演奏することができた。田中洋一(tp)井上
弘道(ts)木畑晴哉(p)宮野友巴(b)というレギュラーバンドで目標を達成できたのは本
当に嬉しかった。彼らもこの夢に力を貸してくれた。
お客さんも大勢来て下さり、ジャズ大賞の関係者の方々にも大変お世話になり、首尾
よくこのライブが終えれた。感謝の気持でいっぱいだった。』
 このような東さんの人間性を反映した心暖まる文章ですが、この文を読んだ事を契
機にして「On a misty night」とはどんな曲なのかに興味を抱き、僕は“The Magic
Touch”(Riverside)という彼のリーダー作を購入しました。このレコードのA面1曲
目に収められた「On a misty night」はオーケストラ編成による分厚いサウンドによ
るテーマフレーズが大変魅力的であり、その他前出の「If you could see me now」
や「Our delight」を含んだアルバム中の全曲が彼のペンから成る作品です。全曲を
通しで聴くと彼の作曲能力のレベルの高さを実感し、ただただ舌を巻くばかりです。
 そういった次第で、他のミュージシャンによるTadd Dameron作曲集といった企画も
ののアルバムも当然ながら生まれてくる事となり、僕の知る限りではPhilly Joe
JonesおよびBarry HarrisがTadd Dameron作曲集を吹き込んでいます。とりわ
けPhilly Joe Jonesの場合にはTadd Dameronとの親交が深かった様であり、1980年代
に“Dameronia”という名称のもっぱらTadd Dameronの作品を演奏するビッグコンボ
を形成する事によって、彼の音楽が再度注目を浴びるべく努めたとの事です。
“Dameronia”はUptownレーベルに2枚のアルバムを吹き込んでいますが、僕はその
うちの“To Tadd with Love”(1982年録音)というレコードを所有しています。一
方Barry Harrisは少し早い1975年という時期にピアノトリオで“Barry Harris plays
Tadd Dameron”(Xanadu)との、彼に対する敬意の念を示した作品を吹き込んでいます。
 皆様も機会があれば是非ともTadd Dameronの作品に注目して聴いてみて下さい。以
前にも述べましたが、ジャズメンオリジナルには知られざる魅力的な佳曲が多くあり、
このような曲に耳を傾けるとジャズを聴く新たな楽しみが増してくるはずですので…。
 ではまた来月、肌寒い日々が続きますが皆様どうぞ寒さに負けずにお元気でお過ご
し下さい。
                            (2005年2月10日 記)