「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第38回 ハワイとジャズ

 僕はハワイには過去2度行きましたがいずれも家族や友人との観光旅行としてであ
り、僕のアメリカ訪問の最大の目的であるジャズ鑑賞とベースボール観戦という意味
合いからはハワイは決して魅力的な街とは言えません。但し観光地としては、ハワイ
の中でも特にオワフ島のホノルルにあるワイキキの浜辺などは世界有数の観光名所の
1つであり、正しく“南海の楽園”と呼ぶに相応しい雰囲気を漂わせています。ただ
家族との観光旅行となると女性陣は買い物に熱中しがちであり、そういった場合に買
い物には余り興味のない僕としては時間を持て余し気味になってしまいます。ハワイ
に行った際にも御多分に漏れず巨大アウトレットに出かけるハメになったのですが、
買い物に興じる家人を尻目にして僕はCDショップで時間を潰す事にしました。その時
に“折角ハワイに来たのだから何かハワイと関連したジャズのCDを買って帰ろう”と
思い立って丹念にCDをチェックして廻ったのですが、結局Bing Crosbyがハワイアン
を歌ったデッカ盤の再発CD程度しか見つける事は出来ませんでした。
 このような経緯により、帰国後ハワイとジャズの関係について少し調べてみました。
その結果ハワイ生まれの代表的なジャズメンとして、Gabe Baltazarというアルト奏
者の名前を見つける事ができました。彼は1929年のハワイの生まれで、その後ウエス
トコーストに渡ってStan Kentonのビッグバンドにも所属していたという経歴を有し
ている人です。代表作としては、1957年に日系ドラマーのポール戸川がModeレーベル
に吹き込んだ“Paul Togawa Quartet”という作品への共演があります。一見若い頃
のArt Pepperを彷佛とさせる如何にも西海岸的な明るいトーンのスタイルが特徴的で
あり、実際Art PepperやBad Shank等によるオムニバス盤である“West Coast Sax
Mode”(Norma)とのタイトルのCDに彼の演奏も数曲収められています。
 ところで、ハワイを象徴する楽器であるウクレレによるジャズについてはどうでしょ
うか?この点に関しても色々と検索した結果、日本でも最も人気のあるウクレレ奏者
の“Ohta-san”ことハーブ太田が数枚のジャズアルバムを吹き込んでいる事が判り、
この内で僕は“Herb Ohta meets Pete Jolly”(M&H:2000年)というCDを入手する事
が出来ました。この作品は、惜しくも先日亡くなってしまいましたが西海岸派のスイ
ンギーピアニストであるPete Jollyと共演したもので、とてもご機嫌な仕上がりとなっ
ています。ただこのCDは目下HMVのインターネット検索でも検出されず既に入手困難
となっている様ですが、昨年ビクターから彼がジャズを演奏した4枚のアルバムから
のオムニバス盤が“Swing Time”とのタイトルで発売され、こちらは現在でも入手可
能です。そしてもう1人、1950年代に既にウクレレジャズを吹き込んでいたLyle
Ritzというミュージシャンがいます。但し彼はベーシストが本業であり、2枚のウク
レレジャズのアルバムをVerveレーベルに吹き込んで以降はむしろベースの仕事を主
体としていた様です。この2枚のうちで“How about Uke?”(Verve:1958年)という
アルバムが一昨年本邦でCDとして復刻されましたので、御存知の方もおられるのでは
ないかと思います。そして大変嬉しい事に、上記の“Herb Ohta meets Pete Jolly”
という作品にはGabe BaltazarおよびLyle Ritzが共に共演ミュージシャンとして名を
列ねており、ハワイ出身ジャズメン勢揃いとの状況を呈しています。
 ところで、昨年の秋に僕を少し驚かせるような事態が起こりました。いつものよう
に何かめぼしい新作はないかとCDショップのジャズコーナーをうろついていた僕の目
に、“Sounds of the City/Honolulu Jazz Quartet”とのタイトルの見慣れぬジャケッ
トのアルバムが飛び込んできたのです。「ハワイから届いたcoolなjazz!/ボサノバ
やビバップなどのテイストも加味した正統派ジャズの調べ…。デビュー作でありなが
らハワイのグラミー賞“ナ・ホク・ハノハノ・アワーズ”のジャズ部門にノミネート
された注目の作品!」との紹介文にも魅せられて購入したところ、確かにハワイのイ
メージは皆無であり且つなかなかの出来栄に感心する結果となりました。このグルー
プはハワイ出身のJohn Kolivas(b)およびTim Tsukiyama(ts)の2人を中心にして結成
された4人組で、ライナーノーツによるとどうやらハワイに腰を落ち着けて活動を行
なっている様です。従って、もしかすると観光でハワイを訪れた際にでも、どこかの
ライブハウスで彼らによる正統的なジャズライブを楽しむ事も可能であるのかも知れ
ません。となると、ジャズファンにとってはハワイ旅行に新たな楽しみが加味される
事となり、直ちにでもハワイに飛び立ちたい気分になるのではないでしょうか?
 ではまた来月、暖冬のはずが年明け以降寒い日々が続きますが皆様どうぞ今年もお
元気でお過ごし下さい。 
                            (2005年1月10日 記)