「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第36回 Danny D`imperioのバップ魂

 今回は相当のジャズ通の方でも恐らくその名前を御存知ないのではないかと思われ
るドラマーについてお話します。彼の名はDanny D`imperioと言い、僕が初めてその
名前を知ったのは大阪は日本橋にあるジャズレコード店「ライトハウス」のDisc
Reportによってでした。この店は現在に至るまで15年以上にわたって、毎月Disc
Reportと称した30頁にも及ぶ新譜紹介の小冊子を発行しておられるのですが、各作品
のジャケット写真に添えられたマスターの辛辣だけど的を得たコメントが魅力的です。
その1992年9月号で彼の「Blues for Philly Joe」(VSOP)という作品が紹介されてお
り、“ビッグバンドでの経験も豊かなダニー・ダンペリオのスマートで抑制の利いた
ハードバップセッション。フロントのアンサンブルもタレ流し風のスタジオ・ブロー
イングセッションとは雲泥の差で、程よくコントロールされ、それぞれのソロも錯綜
する事なく大変バランスが良い。(後略)”とのコメントが加えられていました。この
コメントに惹かれて僕は本作品を購入してみたのですが、これが大当たり!
D`imperioを中心としたリズムセクションが3管編成のフロントを小気味よくプッシュ
して気持ちの良いハードバップが繰り広げられており、僕のお気に入りのCDの1枚と
なりました。
 こうしてD`imperioのファンとなった僕は、以後彼の作品が発売されるのを見つけ
る度に購入し、現在6枚のスモールコンボでの作品を所有しています。上記の
「Blues for Philly Joe」以外には、「Danny D`imperio Sextet」(VSOP:1988年)、
「Hip To It」(VSOP:1992年)、「Glass Enclosure」(VSOP:1994年)、「The Outlaw」
(Sackville:1996年)、「And The Bloviators」(Rompin` Records:2000
年)といった作品ですが、これらのCDすべてに共通している事は収録曲の大部分がジャ
ズメンオリジナルで占められているという点なのです。ジャズメンが作曲したオリジ
ナル曲には美しい旋律の魅力的な作品が少なからず存在しているのですが、演奏され
る機会が比較的少ないために我々の耳に届きにくいのが現状です。そういった点から
は、彼の作品を聴く事は新たな魅力的な曲を知る事ができるという付加的な楽しみも
加わってくる訳です。ちなみに、この6枚の作品中で演奏された曲目を作曲家毎で多
い順に並べてみると、Horace Silverの作品4曲を筆頭にして、以下Hank Mobley・
Barry Harris・Dizzy Gillespieが各3曲、Tadd Dameron・Sam Jones・Duke Pearson・
Bud Powellが各2曲と、やはり佳曲を書く事で知られているミュージシャンの名前が
上位を占めるとの結果が得られました。さらに、これらの作品に加わっているミュー
ジシャンの名前を挙げると、本コラムでこれまでにも紹介してきたDino Losito(ピア
ノ:第9回)、Hod O`brien(ピアノ:第20回)、Ralph Lalama(テナーサックス:第30
回)といったバリバリのハードバッパー達が名を列ねており、Danny D`imperioのバッ
プ魂を強く感じてしまいます。
 ところが、彼のリーダーアルバムが日本盤では全く発売されていない事もあり、
Danny D`imperioというミュージシャンの名前は現在なおほとんど無名に近い状態で
す。そのため、僕も彼がどういった経歴の人かについては長い間判らなかったのです
が、「ジャズ批評 111号」の「ジャズドラムス特集」でようやく彼の経歴に触れた記
事に接する事が出来ました。その記事によると、“Danny D`imperioは1945年の生ま
れで、1969年から1972年までBuddy DeFranco指揮のGlenn MIiller楽団で演奏、その
後はMaynard FergusonやWoody Hermanのオーケストラにも席をおいた。Buddy Richの
影武者としても活躍し、譜面の読めない彼の前でドラム・パートを演奏して覚えさせ
たという。”との事です。道理でというか、最近彼は自己のオーケストラでの作品も
発表しており、どうやらビッグバンドジャズは彼の原点と言えるようです。ちなみに
この作品には我らがEric AlexanderやピアノのBarry Harrisなども参加しており、ビッ
グバンドジャズといってもスモールコンボと同様にバップ色の濃い出来栄えとなって
おり、“やっぱり彼は根っからバップが好きなんだろうなあ”と聴いているこちらも
思わずにんまりとしてしまいます。いつもながら、このように無名だけれど愛すべき
ジャズメンを見つけるととても幸せな気分に浸る事ができるのです。だから、CD探し
はいつまでも止める事ができませんよね。
 ではまた来月、皆様どうぞ晩秋の素敵な季節を大いにエンジョイしてお過ごし下さ
い。
                           (2004年11月10日 記)