「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第35回 “Jazz at Pearl`s”で聴いたHal Stein

 先月サンフランシスコのお話をしましたので、今回はその件と関連してサンフラン
シスコにあるジャズクラブ“Jazz at Pearl`s”の体験談について述べてみたいと思
います。僕は2000年および2001年にそれぞれ1度ずつこのジャズクラブを訪れました
が、特に2000年に訪れた際にはたまたま伝説のサックスプレーヤーHal Steinが出演
したライブに遭遇して大感激してしまいました。以前にも同様の内容の事を記載しま
したが、僕の悪癖(?)として何かジャズ絡みの感動的な出来事があると、すぐに
「スイングジャーナル」の読者のページに投稿したい気分になってしまいます。この
時も帰国して早速この件に関して「スイングジャーナル」に投書し、2000年5月号に
掲載して頂きました。その内容をここに再掲させて頂きます。

『          伝説のサックス奏者ハル・スタインを聴きました

 3月上旬、仕事でサンフランシスコへ赴く機会があり、ある晩ジャズでも聴こうか
とコロンバス・アベニューにある“Jazz at Pearl`s”に立ち寄った。本日の出演は
ロブ・シュナイダーマン・トリオ。レザボア・レーベルからコンスタントにCDを発表
している素晴らしいピアニストだ。こいつはラッキーと演奏に耳をかたむけていたと
ころ、引き続いて演奏に加わったサックス奏者の名前を聴いて驚いてしまった。ハル・
スタイン、1950年代にプログレッシブ・レーベルから発表されたアルバムが幻の名盤
として一時話題になったり、プレスティッジレ−ベルから発表された「フォー・アル
トズ」というアルバムにフィル・ウッズやジーン・クイルらと一緒に参加したりで知
られているサックス奏者であるが、最近はほとんどと言っていいくらいその名を耳に
する機会はなくなっていた。休憩時間に、あなたのレコードを持っていますよと話し
かけると大変喜んでくれて、1950年から3年間横浜に駐留し秋吉敏子さん達と一緒に
演奏した事、ハンプトン・ホーズとはちょうど入れ違いで日本では一緒に演奏できな
かった事、現在は西海岸に居を移しバークリ−に住んでいる事等を話してくれた。
1950年代のレコードではアルト・サックスでの演奏が主体であったのに対して、この
日はテナー・サックス一本による演奏であったが、その演奏からは年齢的な衰えはい
ささかも感じられず、太い音色でよく唄うテナー・プレイを聴かせてくれた。
 それにしても、たまたま立ち寄った店で今が旬のピアニストと伝説のサックス奏者
の演奏を聴く事ができるなんて、アメリカという国は何と奥が深いのだろうと今さら
ながら痛感しつつ帰途についた。      』

 “Jazz at Pearl`s”はチャイナタウンのやや北側に位置したColombus Avenueとい
う大通りに面しており、おまけに店内はガラス張りで被われているため、ライブ中で
もあっても前の通りを歩く通行人からは店の中の状態が覗けてしまうといった開放的
な雰囲気のお店です。僕がこのお店を訪れてからすでに数年が経過してしまったため、
果たして今でも店は健在だろうかといささか心配になってインターネットで検索して
みましたが、ご安心あれお店はちゃんと現在でも営業を続けていました(アドレス:
http://www.jazzatpearls.com/)。さらに嬉しい事には、ホームページ上で出演メン
バーのスケジュール表をチェックしたところ、現在もなおHal Steinは平均月1度の
ペースで出演を続けている様です。今ではもう既に70歳代後半に差し掛かっているは
ずですが、恐らくますます円熟味を増したテナープレイを聴かせてくれている事でしょ
う。
 最後に、Rob Schneidermanについて一言。彼はカリフォルニア大学から数学の博士
号を与えられた程のインテリですが、そのピアノプレイは極めてオーソドックスで頭
でっかちな部分は微塵もありません。良質なジャズを提供する事で定評のあ
るReservoirレーベルからコンスタントに作品を発表しており、その数は現在までに
既に9作を数えています。その中で僕のお薦めとしては、本コラムの第30回で紹介し
たトランペッターのBrian Lynchを含んだQuintetによる「Dark Blue」やピアノトリ
オでスタンダード曲に挑んだ「Standards」およびBud Powellに捧げた「Edgewise」
辺りが良いのではないかと思います。
 ではまた来月、皆様どうぞ心地よい秋の空気を存分に味わいつつお過ごし下さい。
                        (2004年10月10日 記)