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「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第29回 ついにDavid Hazeltineを聴きました!
“貴方は現在活躍中のジャズピアニストで誰が一番好きですか?”と尋ねられたら、
恐らく僕はDavid Hazeltineの名前を挙げる事でしょう。彼は、本コラムの第2回で
も紹介した僕の最もお気に入りのジャズコンボである“One for All”というグルー
プのピアニストを務めている事でも知られている人です。彼の演奏はバップスタイル
が主体ですが、時にはBill Evans風であったりまた時にはモードスタイルになったり
と極めて多彩な展開を示し、その多様な演奏スタイルが彼のピアノプレイをより一段
と魅力的なものにしています。その憧れのDavid Hazeltineを生で聴く事は僕の以前
からの願いだったのですが、彼がたまたま来日してもボーカルの唄伴の仕事であった
りして、なかなか僕の望むピアノトリオで聴くという機会がありませんでした。しか
し、此の度ようやく僕の念願は叶ったのです。
時は3月30日の夜、場所は大阪梅田の「Jazz On Top」。ベースのDavid Williams
およびドラムスのWillie Jonesを伴って、“I Should Care”“Moon River”“What
Kind of Fool Am I”“My Old Flame”等といった既に彼のCDでお馴染みのスタンダー
ド曲を中心にしてこの日のライブは繰り広げられました。演奏を聴いて僕が最も驚い
た事は、ライブでの彼のアドリブソロがこれまでCDで聴いてきた演奏と比べて、シン
グルトーン主体のよりバップ色の濃い熱演であったという点であり、やはり彼は基本
的にはハードバッパーなんだなあという思いを強くしました。演奏終了後には、今年
の2月から3月にかけて相次いで発売された彼の2枚のピアノトリオによる最新作、
すなわち「Close to You」(Criss Cross)および「Alice In Wonderland」(Venus)の
ジャケットにサインを頂きました。
僕が初めてDavid Hazeltineの名前を知ったのは、確か1997年の夏頃たまたまCDショ
ップで彼の1枚のCDを見つけた事によってでした。「The Classic Trio」と題された
そのCDは元来Sharp Nineレーベルにより吹き込まれた作品なのですが、どういう経過
か日本のディスクユニオンが単発契約をして、日本盤として発売されたものでした。
その時の僕は当然ながらDavid Hazeltineというミュージシャンの名前は全く知らな
かったのですが、3人のミュージシャンが正面を向いて並んだいささかノスタルジッ
クだけれどセンスの良さを感じるジャケットデザイン、そして日本盤の帯に書き込ま
れた“オスカーピーターソンとシダーウォルトンを敬愛するという新鋭ヘイゼルタイ
ン初のピアノトリオ作品。ピアノトリオの原点に立つバピッシュな快演。”とのコピー
に魅せられて、何だか引き込まれるようにしてそのCDを購入したのでした。ところが
それが大正解、以後彼は僕のお気に入りのピアニストとなり、次第に心の中で大きな
ウエイトを占める存在になっていったのです。
David Hazeltineは1958年にアメリカはミルウォーキーの生まれですが、上記の
「The Classic Trio」が吹き込まれた1996年頃にはまだほとんど無名の存在でした。
従って、40歳近くになってようやく注目を集めはじめた遅咲きのピアニストという事
になります。ところが、僕はDavid HazeltineのCDを一体何枚持っているのかなとチェッ
クしたところ驚くべき事に14枚もあり、従ってここ数年彼はコンスタントに1年に2
枚近くものハイペースでCDをリリースしているという事になります。その結果、わず
か10年足らずの間にトップジャズピアニストの座まで登りつめたという次第ですが、
彼のCDはそのほとんどすべてが、僕の好きな2大レーベルであるオランダのCriss
CrossおよびアメリカのSharp Nineに日本のヴィーナスを加えた3つのレーベルから
発売されたものです。その中でどの作品が僕のお薦めかと言うと、ピアノトリオなら
ばヴィーナスの「Pearls」辺りを、それ以外ではテナーのEric Alexanderを迎え
たQuartetで吹き込まれた2枚のSharp Nine盤「The Classic Trio meets Eric
Alexander」および「Manhattan Autumn」等が良いのではないかと思います。これら
の作品は、オーソドックスなモダンジャズを好まれる方々にはお気に召す事請け負い
です。
ではまた来月、皆様もよろしければこの春の良き季節の下David Hazeltineの素晴
らしいピアノプレイをお楽しみ下さい。
(2004年4月10日 記)
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