「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第27回 Jimmy Cobbもまだまだ元気だぞ

 今月もまた、先月の続編のようなお話になります。昨年の9月に、Eric Alexander
が加わった2枚のアルバム、すなわち“It`s Prime Time/Joe Farnsworth”(ヴィ
レッジレコード)および“No Problem/One for All”(ヴィーナスレコード)が国
内レーベルから発売になりました。Ericファンの僕が早速これらのCDを買い求めた事
は言うまでもありませんが、残念ながらどちらの作品も僕の心を魅了するまでには至
りませんでした。その最たる理由はこれらの作品が企画物であるという点であり、前
者ではゲストにBenny GolsonやCurtis Fullerを招いてGolsonの作品を3曲取り上げ
ていますし、後者はJazz Messengersのレパートリーを中心にした演奏が繰り広げら
れたものです。だけど僕は、どうして今をときめくJoe Farnsworthが既に過去の人で
あるBenny GolsonやCurtis Fullerと一緒に“Blues-Ette”の再現演奏を行なわなけ
ればならないのか、どうしてOne for Allが今さらJazz Messengersを演奏しなければ
ならないのかという事が理解できないのです。但しこのような企画がもしミュージシャ
ンの希望により立案したものであれば、僕はごめんなさいと言わざるを得ません。し
かし僕が本当に聴きたいのは企画物ではなく、Joe FarnsworthやOne for Allのメン
バー達がN.Y.のジャズクラブで日常的に演奏している、いわゆる“現在進行形”のジャ
ズを聴かせて頂きたいのです。
 ところがこんな事を考えて少し憤慨していた折りに、まるで神の贈り物かの様にそ
のような僕の心情にマッチした1枚のCDと遭遇する事ができました。そのCDは
“Cobb`s Groove/Jimmy Cobb`s Mob”(Milestone)という作品であり、ドラムス
のJimmy Cobbをリーダーとして、ピアノのRichard Wyands・ベースのJohn Webber・
ギターのPeter Bernsteinから成るJimmy Cobb`s Mobという4人組のグループに、ゲ
ストとしてEric Alexanderが客演したものでした。Jimmy Cobb`s Mobは1998年に彼ら
のグループとしての第1作である“Only For The Pure At Heart”(Fable)とい
うCDを吹き込んでおり、この作品も決して悪い出来ではないのですが、第2作の
“Cobb`s Groove”では演奏にEric Alexanderが加わった事によって全員のプレイが
より締まり、完成度の高いものとなったような気がします。そしてもう一つの理由と
しては、何の仕掛けももなく彼らがやりたい音楽を自由に演奏した結果として、より
素晴らしい出来栄えになったのではないかと僕は感じるのです。
 このCDを聴いて喜んでいたところ、さらに追い討ちをかけるように彼をリーダーと
した魅力的なピアノトリオのCDがイタリアから発売され、僕はどんどんJimmy Cobbに
魅了されていくという結果になってしまいました。この作品は“Cobb Is Back In
Italy!”(Azzurra)と題され、恐らくイタリア人のピアニストおよびベーシストと
共に魅力的なスタンダードの小品を奏でたものです。このCDも、もし見つけて購入さ
れたら必ず深い満足感を感じて頂けるのではないかと思います。
 Jimmy Cobbは1929年1月の生まれですので、今年で75歳になります。Philly Joe
Jonesの後任としてMiles Davisのグループに加わり、ジャズレコードの中で最高の名
盤の1枚に数えられる“Kind of Blue”の録音に参加した事で良く知られています。
“Kind of Blue”は1959年に録音されたものですが、この演奏に加わったミュージシャ
ンはリーダーのMiles Davis以下テナーサックスのJohn Coltrane・アルトサックス
のCannonball Adderley・ピアノのBill EvansとWynton Kelly・ベースのPaul
Chambersと、Jimmy Cobb以外のミュージシャンは既に全員が鬼籍の人となってしまい、
現在Jimmy Cobbはこの名演奏に参加した唯一の生き証人という次第です。
 ドラマーの場合、どういう訳かある程度老齢に達してから演奏にますます磨きがか
かり、素晴らしい作品が生み出されるケースが少なくない様です。Art BlakeyやArt
Taylorがその良い例ですし、現在なお活躍中のドラマーとしてはRoy HaynesやLouis
Hayes等にも同じ事が言えるように思います。Jimmy Cobbに対しても、彼らに負けず
劣らず今後さらに素晴らしい作品を生み出してもらいたいものだと僕は切望していま
す。
 ではまた来月、皆様どうぞ寒さに負けずに頑張っていきましょう!
                           (2004年2月10日 記)