「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第26回 Cecil Payneは凄い爺さんや!

 僕がテナーサックスのEric Alexanderの事を大好きだという事はこれまでにも何度
も述べてきましたが、現在でも例えサイドメンであろうとも、Ericが加わったアルバ
ムを発見すると、聴いてみたい!買ってみたい!との欲求が生じてきます。そんな次
第で少し前のお話になりますけれども、僕はEric Alexanderがサイドメンとして参加
しているCecil Payneの“Chic Boom Live At The Showcase”(Delmark)というCDを見
つけて購入したのですが、これがまた最高に御機嫌な作品だったのです。 
 このCDは今から4年前の2000年の録音なのですが、Cecil Payneは1922年の生まれ
ですのでこの時すでに78歳という事になります。ところが、そのような予備知識もな
く1曲目の“Chic Boom”という曲の出だしを聴いた途端、僕は驚いてぶっ飛びそう
になりました。Eric Alexanderのテナーサックス、Jim Rotondiのトランペットとの
3管編成で飛び出してきたバリトンサックスの音色の何と骨太で何と心地よい事か…。
このCDにすっかり魅了されて一気に最後まで聴き通した後に改めてライナーを読んで、
僕は彼の実年齢を知って2度ビックリ!といった次第でした。僕はこの作品がとても
気に入ってしまったため、改めてEricのディスコグラフィーをチェックしてみたとこ
ろ(このようにしてお気に入りの作品を見つけ出していくのもジャズを聴く上での楽
しみの一つですよね←実は単なるオタクともいえるが…)、Eric AlexanderとCecil
Payneとの共演はこの作品が初めての事ではなく、Ericが有名になる以前のシカゴ時
代を中心にして過去にも何枚かの共演アルバムが吹き込まれているという事実が判明
しました。
 となると早速2人が共演した他のCDも聴いてみたいとの欲望が心の底から沸き上がっ
てくる訳ですが、悲しいかな大手輸入CDショップまで足を運んでも、このような少し
古くてかつマイナーなCDを店頭で入手する事はほとんどの場合まず不可能です。とこ
ろが、こういった場合の僕の大きな味方がいつも御世話になっているHMVのインター
ネット販売であり、既に廃盤になっている場合を除けばHMVにオーダーすると大概の
アルバムは見つけ出して送ってきてくれます。このようにして僕は、2人が共演して
いる他のCDのうちで、“Cerupa/Cecil Payne”(Delmark:1993年)・“Scotch and
Milk/Cecil Payne”(Delmark1996年)・“Two of a Kind/Eric Alexander”
(Criss Cross:1996年)の3枚を入手する事が出来ました。これらの作品もいずれ
劣らぬ秀逸な出来栄えなのですが、年齢的に考えると2人の関係は、Ericがデビュー
した当初には多分Cecil Payneの方が師匠格のような関係で付き合いが始まったので
はないかと想像されます。従ってEricの人脈としては、本コラム第2回で述べたJim
Rotondi・Steve Davis・David Hazeltine・JoeFarnsworth等といった彼とほぼ同世代
の今をときめくN.Y.Jazz界バリバリのトップミュージシャン達とのタイトな付き合い
以外に、Cecil Payneや本コラム第12回で紹介したHarold Mabernのような遥かに年上
のミュージシャンとの親交も深い様です。たまたまスイングジャーナル誌の今月号
にEric AlexanderとHarold Mabernとの出会いに関する記事が掲載されていたのです
が、その記事によるとHarold MabernはEricがジャズを学んでいた大学の先生であっ
たとの事です。大学の恩師を自分のグループに迎える当たりEricの愛すべき人柄を反
映しているように思うのですが、Cecil Payneに対しても恐らく同様にEricは深い敬
意をもって接しているのではないでしょうか?
 一方Cecil Payneの人脈はと言えば、Duke Jordanとの長年に及ぶ交流が知られてい
ます。僕が自分のレコード棚からCecil Payneのリーダーアルバムを探し出したとこ
ろ、“Cecil Payne”(Signal:1956年)と“Brooklyn Brothers”(Muse:1973年)
との2枚のレコードが見つかりましたが、いずれのレコードにおいてもそのピアニス
トとしてDuke Jordanの名前がクレジットされており、その上後者のレコードのライ
ナーノーツでは“Cecil PayneとDuke Jordanとの関係はローストビーフとヨークシャ
プディングとの関係に似ている。彼らは少年時代からの仲間であり、そして生涯を通
じた友人である。(後略)”とのMark Gardnerによる洒落た一文がしたためられてい
ます。ただ残念な事に、最近Duke Jordanは病のために音楽活動を行なう事が出来な
い状態であるとの噂も聞きました。従って、せめて未だに元気一杯のCecil Payneに
対しては、Duke Jordanの代わりといっては余りに失礼なのですが、この若いEric
Alexanderとの深いフレンドシップによりさらなる魅力的な演奏を聴かせて欲しいと
僕は願って止みません。
 ではまた来月、皆様どうぞ今年もしっかりジャズを聴いて、ハッピーな気分で過ご
していきましょう。
                          (2004年1月10日 記)