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「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第25回 頑張れイーストワークスレーベル
僕の場合、年に2〜3度は東京出張の機会があります。この際にどこのホテルに宿
泊するかという事が問題となり、予算に限りがあるため出来るだけ安くで泊まらない
といけないのですが、バブル絶頂期には東京で1万円以内で宿泊するという事はなか
なか至難の技でした。ところがバブル崩壊後は東京でも比較的安価で且つ居心地の良
いホテルが登場するようになり、ここ数年の僕の常宿はJRお茶の水駅から徒歩3分の
場所にある某ホテルです。ここは平常料金でもシングル8000円台なのですが、インター
ネットで予約するとさらに割り引きがありお得な気分になってしまいます。最近では、
新幹線も停まるようになって注目されているJR品川駅周辺等にもさらに安いホテルも
出来ているのですが、僕はお茶の水という街をとても気に入っているため、当分の間
常宿をこのホテルから変更するつもりはありません。少し早起きをして、朝御飯を食
べに行こうかとホテルを出るとそこには神田川が流れており、聖橋やニコライ堂等と
いった由緒ある建造物を眺めながら風情のある散歩を楽しむ事ができます。そして何
と言ってもお茶の水の街には、ジャズの中古盤の在庫が豊富な「ディスクユニオンお
茶の水店」というレコード店と、「お茶の水ナル」というジャズライブハウスがある
という事が僕にとっては最大の魅力なのです。
「お茶の水ナル」はホテルから徒歩5分くらいの距離にあります。従って少々飲み
過ぎても安心なため、僕はこれまでにもこのホテルに宿泊した際には「お茶の水ナル」
に何度か通ってきました。この店の出演者の人選はハードバップからもう少しモーダ
ルなラインまでの日本のトップミュージシャン達が主体であり、前もってチェックを
せずに突然訪れたとしても、まずその日の出演ミュージシャンの名前に失望させられ
る事はありません。今年の夏に僕が「お茶の水ナル」に行った日には多田誠司(as)+
岡崎好朗(tp)クインテットが出演していましたが、このライブは今年も数多く聴いて
きた僕のジャズライブ体験の中でも屈指の印象に残る好ライブでした。多田誠司さん
は最近では日野皓正グループ等でも活躍されており、今や日本のトップアルト奏者と
評価されている人です。基本的にややモーダルなラインですが、スリル感と共に心地
良さを与えてくれる演奏スタイルであり、聴いていてどんどん演奏に引きずり込まれ
ていくような独特の魅力があります。また、彼の暖かい人柄を反映したような軽妙
なMCもとても魅力的です。一方岡崎好朗さんは、僕が日本一のハードバップバンドで
あると信じて疑わない小林陽一&Good Fellowsのフロントの一角を長年にわたって担っ
ているトランペッタ−であり、ハードバップ一辺倒の演奏スタイルは聴いていてとて
も好感の持てるものです。そして今年の秋にこの2人のリーダーアルバムが揃ってイー
ストワークス(ewe:East Works Entertainment)というレーベルから発売されました。
イーストワークスは綾戸智絵さんの諸作で知られるレーベルですが、それ以外にも
豊かな才能を有しているにもかかわらず大手レコード会社では多分二の足を踏むであ
ろう本邦の若手ジャズミュージシャンのCDを多数発売しています。それもインディー
ズレーベルならではの、ミュージシャンが本当にやりたい音楽を演奏しているという
姿勢がありありと窺われるスタイルでの製作がなされており、これでは採算度外視で
はないかと他人事ながらいささか心配にさえなってきます。僕は綾戸智絵さんの作品
以外では、上述の多田誠司さんの「Because of You」(EWCD0082)・岡崎好朗さんの
「Hank`s Mood」(EWCD0079)(このCDは岡崎さんのペンからなるオリジナル曲諸作の
出来栄えが特に素晴らしく、まるで1950年代から60年代前半のブルーノートレーベル
のレコードを聴いているのでは?と錯覚するような“あの頃のジャズ”の音が聞こえ
てくる僕の超お薦め作です)の他に、東京銘曲堂の「You don`t know what love is」
(EWCD0035)、川嶋哲郎さんの「SUNA-an edge of the standards-」(EWCD0044)、石井
彰さんの「Synchronicity」(EWCD0057)などのイーストワークスレーベルのCDを所有
していますが、いずれ劣らず素晴らしい演奏が収録されています。イーストワークス
レーベルには今後さらに頑張ってほしいものだと僕は切に願っています。
それと共に、日本でもこのようなインディーズレーベルが多数生まれて、僕たちに
とって身近なミュージシャン達のCDがどんどん製作されるようになったら、ジャズの
聴き方も拡がりが生じてさらに楽しくなるのになあ等と考えたりしてしまいます。
ではまた来月、いよいよ今年もあと残り僅かですが皆様寒さに負けずお過ごし下さ
い。
(2003年12月10日 記) |
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