「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第20回 Hod O`brienは今が旬

 元々音好きの僕にとってCDウオークマンは必需品です。僕は平日は電車通勤ですの
で、電車の中では日々英会話のCDを聞いて英語を上達しようとの虚しい努力を繰り返
しています。しかし、土日に仕事に出る際には車で通勤しており、車の中で英会話を
聞くと何だかそちらに熱中する余り自動車事故を起こしそうな気がして、車に乗る時
にはジャズのCDを聴く事にしています。そして必然的に現在のお気に入りのCDを選択
するという事になりますが、やはりピアノトリオが多く、最近ではこれまでにも紹介
してきたDavid HazeltineやVladimir Shafranov等と並んで、Hod O`brienのピアノト
リオのCDを聴く機会が多いようです。
 僕がHod O`brienの名前を初めて知ったのは、スイングジャーナル誌1994年5月増
刊の「ハードバップ熱血事典」の中の「私のハードバップ愛着盤セレクション」とい
う記事によってでした。自分の最も好きなハードバップのレコードを3枚選ぶという
企画で、執筆者の大部分が1950年代の大名盤を選んでいたにも関わらず、寺島靖国さ
んの項だけは記事の横に今までに見た事もないジャケットの写真が紹介されており、
それがHod O`brienの「Ridin` High」(Reservoir)であったという次第でした。ちな
みにこの文中で、寺島さんは「ハードバップのレコードはハラハラ、ドキドキしてこ
なければ嘘だ。僕はいつもハラハラ、ドキドキしたくてたまらずにこの3枚のレコー
ドをかける。何だ新しいのばっかりではないか、オマエの得意の50年代はどうした、
と言われそうだが、僕にとってハードバップは新しいも古いもない、“たった今好き
なジャズ”なのだから仕方がない。」との見事な言い訳(?)をしておられます。
 この記事を読んで、御高名な寺島さんが推薦される現代のハードバップとは如何な
る作品であろうかと興味をそそられ、僕も恐る恐るこの作品を購入してみました。そ
の結果、全く僕好みのきわめてオーソドックスなピアノである事が判明してたちまち
気に入ってしまい、以後現在まで彼のCDは発売されるや直ちに購入するようにしてい
ます。そしてその後のどのCDも僕に深い満足感を与えてくれ、まさしく“寺島さん有
難う!”といった気分です。
 Hod O`brienは1936年シカゴの生まれ。1950年代〜60年代にはすでにArt Farmerの
「Three Trumpets」(Prestige)やRene Thomasの「Guitar Groove」(Jazzland)等の録
音にも参加していますが、この時代に彼のリーダーアルバムの吹き込みはなく、僕の
知る限りでは彼の初リーダーアルバムの吹き込みは1982年の「Bits and Pieces」
(Uptown)まで待たねばならなかった様です。その後は、「Opalessence」(1985年:
Criss Cross)、上記の「Ridin` High」(1990年:Reservoir)、「Hod and Cole」
(1991年:Jazzmania)、「So Thats` How It Is」(1997年:Reservoir)、「Have
Piano…will Swing!」(1999年:Fresh Sound)、「Fine and Dandy」(2000年:Fresh
Sound)等の録音を次々と行っています。ジャズCDの通信販売専門のスーパーストッ
プという会社が出している「ジャズエール」という月刊の販売用リストによると同社
の2002年度年間売り上げ第一位の作品がHod O`brienの「Fine and Dandy」であった
との事であり、どうやら彼の人気も現在マニアの間ではぐんぐんとうなぎ上り状態の
様です。
 彼の作品のうちでどれがお薦めかと言うと、文句なしにピアノトリオの編成である
2枚のReservoir盤と2枚のFresh Sound盤という事になると思います。彼のピアノプ
レイは特にアドリブパートにおいては、いわゆる“玉コロ”と呼ばれる、まるで玉を
転がしたようにひたすらシングルトーンでメロディアスな演奏が続くというスタイル
であり、ややもするとどこをとっても同じ“金太郎飴”状態になってしまいますが、
それもまた好き者にはたまらない魅力であると言わざるを得ません。
 1950年代からジャズシーンで活動を続けていたのにも関わらず、ほとんど人々の注
目を浴びる事なく過ごしていたHod O`brien。21世紀に至って、遠い異国の地日本で
自分のCDが好調なセールスを記録している事を彼が知っているのか否かについては定
かではありませんが、彼のプレイが現在生涯の絶頂期である事は間違いないでしょう。
Hod O`brien 67歳、今が旬です!
 ではまた来月、今年は雨の多い梅雨がもうしばらく続きそうですが、皆様どうぞ健
康に気をつけてお過ごし下さい。
                           (2003年7月10日 記)