「ボイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第2回 “One for All”を聴いてみよう

 皆さんはCDショップへ行って国内盤のジャズ新譜CDを眺めてい
ても、興味をそそられるものが見つからないといった経験をお持ちで
はないでしょうか?僕の場合最近特にその傾向が顕著で、欲しくなる
CDに出くわさないのです。このような悩みは、昔貧しかった学生時
代の、欲しいレコードはいくらでもあるのに予算に限りがあるため泣
く泣く断念せざるを得なかった経験と比べると贅沢な悩みかも知れま
せん。しかし、“今日は何か新しいCDを買うぞ”と意気込んでCD
ショップへ行ったものの、手ぶらで帰ってくるというのもいささか寂
しい気持ちがします。しかし、心配は御無用。現在輸入盤のジャズ
CDはとても元気で、輸入盤の世界に目を向けると必ず欲しいCDが
見つかるはずです。個人的には特にCriss CrossとSharp Nine
の2レーベルはハードバップをベースとした気持ちの良いジャズを展
開している僕のお気に入りのレーベルですが、中でもCriss Cross
はオランダの会社でありながら既に200作以上の作品を発表しており、
あたかも現代に蘇ったBlue NoteかはたまたPrestigeかといった
風格すら漂わせています。そして、この2レーベルを股にかけて活躍
しているグループが今回紹介する“One for All”なのです。
 “One for All”はEric Alexander(ts:1968年生)、Jim
Rotondi(tp:1962年生)、Steve Davis(tb:1967年生)、David
Hazeltine(p:1958年生)、Peter Washington(b:1964年生)、Joe
Farnsworth(ds:1968年生)の6人から成るオールスターバンドで、少
しジャズに精通した方ならばどのミュージシャンの名前も御存知なのでは
ないかと思います。1997年にSharp Nineから初リーダー作“Too
Soon To Tell”を発表して以後、現在までに“Optimism” (Sharp
Nine:1998年)、“Upward and Onward”(Criss Cross:1999年)
、“The Long Haul”(Criss Cross:2000年)、“The End of a
Love Affair”(ヴィーナス:2001年)、“Live at Smoke vol.1”
(Criss Cross:2001年)とほぼ1年に1作ペースでコンスタントにCD
を作っています。彼等の演奏は、決してモードに偏らない範囲内で現代調
を加味したハードバップジャズが基調であり、あたかも往年のジャズメッ
センジャズを思わせるような分厚い3管編成のフロントのハーモニーも
魅力的です。
 また、メンバーのほとんどがCriss Crossレーベルから個々のリーダー
アルバムも発表しています。中でもSteve Davisの“Dig Deep”
(Criss Cross 1136)ではベースがNat Reevesに代わっただけ、Jim
Rotondiの“Excursions”(Criss Cross 1184)ではドラムスが
Kenny Washingtonに代わっただけでその他は“One for All”と全く
同じメンバーで構成されており、彼等相互間の絆の強さには驚かされるば
かりですが、“One for All”の音楽を気に入った方にはこのようなCD
もエンジョイできる事でしょう。
 また、スイスのTCBレーベルからは“The N.Y. Hardbop Quintet”
という“One for All”と同じようなコンセプトのオールスターバンド
(こちらはフロントがtsとtpの2管編成ですが)のCDが出ていたので
すが、最近は活動を停止しているためか1997年に3枚目のCDを発表し
て以降新譜が出てこないのはいささか残念です。但し、同グループのトラ
ンペッターのJoe MagnarelliもやはりCriss Crossレーベルからリー
ダーアルバムを発表しており、爽快なトランペットを聴かせてくれています。
 ジャズ専門誌を見ても、輸入盤に関する情報は国内盤と比べると随分少
ないのが現状です。しかし、自分自身の耳をたよりにして、自分だけの好
みのミュージシャンを見つけてCDをこつこつと集めていくのもまたジャ
ズの愉しみの1つではないかと思います。 
 ではまた来月、皆様どうぞ風邪などひかれませんように。
                     (2002年1月10日 記)