「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第16回 コンコードレーベルについて

 “如何にして美味しいビールを飲むか”という事は、僕の人生における最大の命題
の一つです。客の入りがまばらで緑の芝生が綺麗な野球場(すなわちグリーンスタジ
アム神戸の事ですが…)で飲むビールもなかなかオツなものですが、野外ジャズライ
ブに行って涼風と満天の星空を楽しみつつ、心地良い演奏を聴きながら飲むビールの
味は最高です。そういった意味から、1981年夏に神戸ポートアイランドで開催された
ポートピア博の一環として催された屋外ジャズコンサ−トの際に、コンコードオール
スターズのライブを楽しみながら夜風を肌に感じつつ飲んだビールの味が最高に旨かっ
た事は、20年以上過ぎた今でも僕にとっては忘れ難い思い出の一つです。そして、そ
の時のビールの味をとりわけ美味にしてくれたのが、コンコードオールスターズによ
るモダンスイングの演奏であった事は言うまでもありません。手許の資料によります
と、その時の出演メンバーは、Scott Hamilton、Buddy Tate、Al Cohnの3テナーサッ
クスをフロントにして、Dave McKenna(P)、Cal Collins(g)、Bob Mays(b)、Jake
Hanna(Ds)がリズムセクションを固めるといった大変豪華な布陣でした。
 コンコードレーベルは、サンフランシスコ近郊のコンコード市で自動車ディーラー
をしていたCarl Jefferson氏という1人の熱狂的なジャズファンによって1973年に設
立されました。当初はギターファンであるというJefferson氏の好みによってギター
奏者のアルバムが立て続けに発売されましたが、その後様々なタイプの楽器編成での
演奏も幅広く取り上げられるようになりました。しかし、楽器は違えどもその演奏ス
タイルは一貫して、プロデューサーであるCarl Jefferson氏の意向を反映したモダン
スイングスタイルであり、その事が多くのファンの支持を得て、コンコードレーベル
は大レーベルへと成長していきました。コンコードレーベルの功績としては、以前に
は大スターであったものの当時少し忘れかけられた存在となっていた多くのミュージ
シャン達、例えばボーカルのRosemary Clooney、Mel Torme、Ernestine Andersonや
ピアノのDave Brubeck、George Shearing等を完全復活に導いた事が挙げられますが、
何と言っても最大の功績は、テナーサックスの若きスターScott Hamiltonを発掘した
という点でしょう。1977年、弱冠22歳の彼はコンコードレーベルからデビュー作
“Scott Hamilton”(CJ-42)を引っさげてフュ−ジョンブ−ム真っ盛りのジャズシー
ンに颯爽と登場しました。オールバックのヘアスタイルに黒サングラスといういでた
ちで演奏する彼のジャズは、Ben Websterを彷佛とさせるようなノスタルジックなス
タイルのものであり、そのミスマッチがかえって新鮮さを呼び、たちまち彼はスター
ダムの頂点へと昇りつめていきました。現在なお、彼は第一線のテナーサックス奏者
として活躍を続けていますが、その後Harry Allen等彼に近いスタイルのより若いミュー
ジシャンも追従し、彼が現在のモダンジャズの隆盛の復興に貢献した事は間違いない
でしょう。
 コンコードレーベルのレコードジャケットに関して、以前から僕がずっと不思議に
思ってきた事があります。それは、とても秀逸なジャケットがある反面全く手抜きと
しか思えないようなジャケットもあり、ジャケットの善し悪しが余りに両極端である
という点です。ちなみに、僕の大好きな秀逸ジャケットの代表としては、少女漫画チッ
クなRosemary Clooneyの“Everything`s Coming Up Rosie”(CJ-47)、ジグゾーパズ
ルを模したHoward Robertsの“The Real”(CJ-53)、肖像画を描いたGeorge Barnesの
“Plays So Good”(CJ-67)などが挙げられます。
 Carl Jefferson氏は1995年に逝去されましたが、コンコードレーベル自体はその後
も活動を続け、現在その総カタログ数は900にもなろうかという勢いです。ただ、
Jefferson氏亡き後はより様々なスタイルのジャズアルバムを発表するようになりま
したが、その反面当初のモダンスイングというレーベルイメージは薄れつつあるよう
に思わ、何だか最近のコンコードレーベルに対して一抹の寂しさを覚えるのは僕だけ
でしょうか? 
 ではまた来月、3月だというのにまるで真冬のような日々が続きますが、春はもう
そこまで来ているはずです。春の到来を楽しみにして、皆様頑張ってお過ごし下さい。
                             (2003年3月10日 記)