「ヴォイスの客」はらすすのジャズよもやま話
連載第11回 ジャズビデオの愉しみ

 僕はジャズのライブに行ったりレコードやCDを聴いたりする事が大好きですが、ジャ
ズビデオを見る事も結構好きです。ジャズビデオの楽しみ方としては、@大画面モニ
ターとサラウンディング機能を有したオーディオセットを備えて、最新のライブビデ
オなどを溢れる臨場感で楽しむ、Aノスタルジックなモノクロビデオで、これまでに
レコードで聴いたことしかないジャズの巨人が実際に動いている姿を見て感動する、
の2つのパターンに大別できると思いますが、僕の場合は後者で、主に1960年代半ば
までのモノクロビデオを見てエンジョイしています。
 最初に貴重なジャズの映像がビデオ化されたのは、1983年〜1984年頃に東映ビデオ
から発売されたものだったと記憶しています。このシリーズには、1951年のダウンビ
−ト授賞式でのCharlie Parker〜Dizzy Gillespieの演奏を含む「Diz`n Bird and
Hawk」、John Coltrane・Wynton Kelly・Paul Chambers・Jimmy Cobbを従え
たQuintetおよびGil Evans Orchestraとの共演を収録した1959年のMiles Davisの
「The Sound of Miles Davis」、Count Basieの半生をドキュメンタリー風に編集し
た「Count Basie Story」、Billy HolidayやLester Young,Coleman Hawkinsなどの演
奏を収めた「The Sound of Jazz」、Ben WebsterとAhmad Jamalのグループによ
る1959年の演奏を収録した「Jazz from Studio `61」などがありましたが、いずれも
現在は絶版のままで入手不可能なのは誠に残念です。但し、発売時においては当時は
まだまだビデオソフトが出始めたばかりであったため、ソフトの値段が1万円から1
万5千円程度ときわめて高価で、買いたくともとても手が出ないという状況でした。
幸い、僕の場合には当時阪急夙川駅近くにあったビデオショップがダビングサービス
をしており、そのお蔭で上記のほとんどのビデオをコピーしてもらう事ができまし
た(今から考えるとこの行為も違法だった訳ですが、その店も既に今はなく、時効と
いう事でお許し下さい)。動くCharlie Parkerの映像は、僕の知る限りでは上記の
「Diz`n Bird and Hawk」ともう1種類Norman Grantzの進行による「Improvisation」
の合計2種類しか存在しておらず、とても貴重なものです。また、東芝からは1959年
のフランスでのピアノトリオおよびClark TerryとBarney Wilenを含むQuintetによ
るBud Powellの演奏が発売されており、動くBud Powell(!)を見るだけで、ジャズファ
ンならそれはもう大感激してしまう事必至です。
 現在シリーズ化されている入手可能なジャズビデオを紹介しますと、アメリカ製作
ものでは、いずれも1960年代前半にウエストコーストで収録された「Jazz Scene USA」
とジャズ評論家のRalph Gleasonによって企画された「Jazz Casual」という2つのシ
リーズが挙げられます。前者はOscar Brown Jrがホストを務め、Frank Rosolino、
Stan Kenton、Cannonball Adderley、Teddy Edwards、Shelly Manne、Shorty Rogers、
Phineas Newborn、Jimmy Smithなどの演奏が輸入版のビデオとDVDで入手可能です。
後者は、Ralph Gleason自身によるインタビューを含んだもので、Sonny Rollins(こ
れもrare!)、John Coltrane、Mel Torme、Carmen McRae、Cannonball Adderley、
Count Basie、Jimmy Rushing、Dave Brubeckなどの演奏が同じく輸入版のビデオで発
売されています。しかし、当時ジャズという音楽を、より芸術という観点で評価して
いたのはアメリカよりもむしろヨーロッパの諸国であり、そういった気風を反映して
か往時のジャズビデオはアメリカ本国よりもヨーロッパで製作されたものの方が多く
残されているようです。中でも、イギリス国営放送BBCが1964年から1965年にかけ
てTV番組として放送した「Jazz 625」というシリーズは多種のソフトを有した充実モ
ノで、日本でもバップから20種類ものソフトがビデオで発売されていました。とりわ
け、Wes Motgomeryのビデオは初めて発掘された動く彼の映像であり、今まで謎とさ
れてきた彼のオクターブ奏法の指使いが明らかになったという意味からも大変貴重な
ものでした。ちなみに、その後ウエスの1965年のベルギーでのライブビデオも発掘さ
れ、同じくバップから発売されています。 
 しかし、ビデオテープの時代もそろそろ終焉を向えつつある様です。VHSかβかと
大騒ぎをしていたのがついこの間のような気がして、“本当にビデオテープの時代は
短かったなあ”と実感してしまいます。将来に備えて、これらのビデオをDVDにダビ
ングしておいた方が良いのかも知れませんが、DVDが今後のビジュアルソフトとして
確立していくのか否かについても疑問であり、どうしたら良いのか悩んでいるような
次第です。また、上記の「Jazz 625」シリーズもビデオは既に絶版となり、代わっ
てDVDが発売されているのですが発売種類はビデオの半数以下のみであり、今後DVDソ
フトは安定供給されるのかという不安もあります。こういった点を含めて、今後の市
場の動きを見守っていきたいと考えています。
 ではまた来月、皆様どうぞ心地良い秋の季節を思う存分エンジョイして下さい。
                            (2002年10月10日 記)

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